Um romance

□義理兄様
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「あ、イタリアちゃ‥」
「帰れ、不憫」



開かれた扉がすぐに鼻先でばたんと勢いよく閉められる。風圧で手に持ったイタリアちゃんに渡すつもりの薔薇の花びらが何枚か舞った。
一瞬だが、扉の間から見えた人物は自分が会いに来た思い人ではなく、確かに似てはいるがもっと目付きの悪い彼の兄ロマーノ。



(うわ、俺様運悪ぃ‥)



自分はロマーノに好かれていない。
察しの良くないと定評の自分でも分かるほどにあからさまに嫌な顔をされたり、無視をされたり、暴言を吐かれたり、その悪意を全くといっていいほど隠す気がない。

こちらとしては彼はイタリアちゃんの兄であるわけだからうまくやっていきたい気はある。
まぁロマーノがイタリアちゃんに対して兄弟以上の感情、つまり恋愛的な情を抱いているのだからその邪魔である自分は面白くない存在なのだろうけど。



「イタリアちゃんの義理兄様!イタリアちゃんデートに誘いにきたんだけどよ!ドア開けてくんねーか」
「うるせーちくしょう!ヴェネチアーノにはぜってー会わせねぇからな!つーか義理兄様って呼ぶんじゃねぇ!」



全く、なんて可愛くないんだろう。ドア越しに吐かれる罵声に耳を疑う。
イタリアちゃんと血が繋がってると思えない。顔だってなかなか似ているというのに。ロマーノのとは打って変わりイタリアちゃんは滅多に汚い言葉を言わない。

いつもロマーノに苦労させられているスペインの気持ちが少し分かった気がする。



「家にはあがらねーからさ、イタリアちゃん呼んでくんねーかな?頼むよ」
「だから嫌だっつってんだろケ・バッレ!!」



心内で舌打ちする。何故こんなにも上手くいかないのだ。
仕事を切り上げ、やっと作った暇だというのに偶然家にいたロマーノに邪魔されるだなんて。
まぁアポをとらなかった自分も悪いのかもしれないが。

そうだとしてもここで引き下がる気はない。絶対にイタリアちゃんに会ってデートに誘ってやる。



「おい!いい加減にしてくれよ、義理兄様!イタリアちゃん出せっつてんだろ!!」
「な、何様だコノヤロー!義理兄様って呼ぶなっつってんじゃねーかボケナス!嫌だね、絶対に‥」
「あれー兄ちゃんどうしたのー?」
「げ‥ヴェネチア‥」



ドアを挟んで聞こえた聞き慣れた柔らかい声。ドキンと胸が跳びはねた。

イタリアちゃんの声だ。



「なんかさー外からプロイセンの声がした気がしたんだけどー」
「してねーっ!!」
「してるしてる!イタリアちゃん俺様だぜー!」
「ヴェーほらー!」
「あ、馬鹿っ!」
「え‥、」



ガチャリと開いた扉の先にはいつもよりラフな恰好をしたイタリアちゃん。おそらくまだ寝ていたのだろう。
ブラウンの髪はぴょこぴょことはねていてとても可愛い。

その新鮮な姿のイタリアちゃんに目を奪われているとニッコリと微笑んだ彼と目があった。



「チャオ!どうしたのプロイセン?」
「あ、いやその‥今日時間あったら一緒にデートしねぇか?」
「絶対駄目にきま、」
「行く行くー!」



じゃあすぐに服着替えてくるからーっと家の奥に走っていくイタリアちゃんの背中にロマーノが聞こえないように舌打ちをする。

そんな彼に唇を吊り上げて不敵に微笑んで手に持っていた薔薇を差し出した。
本当はイタリアちゃんに渡すつもりだったのだけど。



「‥なんのつもりだ?」
「義理兄様へのお近づきの印に」
「はっ!うざ、」



差し出された薔薇を汚いものをつまむかのように指先で挟み受け取る。どんなに嫌でも断らないところがさすがイタリアちゃんのお兄様だと思う。
うん、性格には難があるけどやっぱり悪いやつじゃないなと再確認。



「プロイセン用意できたよー」
「おうじゃあ‥」
「俺も行くぞ」
「な、」



ロマーノは薔薇をぽいっと玄関になげこむとこちらに向かってやり返すかのようににやりと唇を歪ませて不敵に笑った。



「いいよな?ヴェネチアーノ?」
「兄ちゃん来るのー?全然いいよー」
「だ、そうだ。悪いなジャガ芋二世」
「な、な、な、な‥!」



言葉にならない言葉を発しているとべーっと舌をだして親指を立てると下に向けた。
前言撤回。超嫌なやつだ。何がイタリアちゃんの兄だ。
こんな性悪、イタリアちゃんの兄弟なわけがない。
こいつだけには絶対負けるわけにはいかない。






「ぜってぇ負けねぇぞ義理兄様」
「てめぇなんかにヴェネチアーノ渡すかスカタン。つか義理兄様って呼ぶなアホ」


end
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