Um romance

□muffler
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びゅう、と音を立てて冷たい風が過ぎ去る。その冷たさにぶるりと小さく身震いをした。
道行くものが皆、マフラーや耳当てをしている中でシャツにカーディガンという軽装をしていることに心底後悔する。

まだ秋だと油断してしまった。気付かない間に外にはもう冬が来ていたのだ。
ちゃんと天気予報を見ておくんだった。

しかしそれにしてもこれはいくらなんでも寒すぎだろう。これも地球温暖化の影響なのだろうか。だとしたら一刻も早く自国でも対策をうつべきだ。



「ヴェー凍え死んじゃうよ‥」



かじかむ指先を吐息で温める。
その辺で手袋でも買っていこうか。しかし家に帰ればあるものをわざわざ買うのも考えものだ。
この不景気の中、自分も他国と同じく節約をしなくてはやっていけないのだ。

とっとと用事をすませて家に帰ろう。
そして日本に貰ったあのコタツにオレンジを持って潜ろう。あれは本当に温かい。コタツを考えた日本人にノーベル賞をあげるべきだ。

そうだ、早く家に帰ってコタツに入るんだ。




「寒そうだね」



ふいに頭上からふってきた言葉に顔をあげると長いマフラーを首にまいたロシアがいた。
久しぶりイタリア君、と挨拶をしてくる彼に些か面を喰らいながら挨拶を仕返す。彼がイタリアに観光にくるのは極め稀だ。
もしかしたら初めてかもしれない。



「珍しいね、ロシアが俺ん家観光って。今日はどうかしたの?」
「そうかな、結構頻繁に来てるよ。ここに来たのももう三回目ぐらいだし。まぁでもイタリアでイタリア君に会ったのはこれが初めてかもね」



驚いた。どうやら彼は自分が知らない間に何度も訪れてくれてるらしかった。
確かにイギリスにくらべイタリアに溶け込んでいる。
まぁ若干の身長の違いと田舎っぽさは否めないが。



「言ってくれれば観光案内ぐらいしたのに」
「ふふっじゃあ今からいい?」
「もっちろん」



ロシアが嬉しそうに笑った時、また冷たい風が吹いた。ひゃっと声をあげ身を縮こまる。
そうだ、早くコタツの待つ家に帰らなければ。



「ロシア、ごめん!俺急いで用事を‥」
「これ、貸してあげるよ」
「え」



首にふわりとまかれたマフラーに目をしばたかせる。少しロシアの温もりが残るベージュのマフラー。
長いそれを首に巻くだけでとても温かい。
しかしこれはロシアの大切なもののはず。



「いいの、これ?」
「うん、僕にとってはこれぐらいの気温は暖かいぐらいだから」



だから、案内お願いできるかな?と恥ずかしげに呟くロシアにうんっ!と元気よく返事をした。


end
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