Um romance

□空気を読んで!
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この世に生を受けて何百年、初めて好きな人ができた。


赤がかかったブラウンの柔らかい髪に成人男性とは思えない華奢な体躯、雪のような白い頬。
へたれで泣き虫で食いしん坊で無防備で無邪気。

自分より遥かに年上だというのにその姿、性格は確実に自分より幼い。年齢を詐称しているのでは、とつい疑いたくなってしまう。

そんな彼は無意識ながら回りの男を魅了していく魔性の魅力を持つ男。
そして例外なく自分も彼にぞっこんなわけで。




「ねぇちょっとイタリア」
「何何アメリカ、どーしたの?」


呼べばてってっと笑顔で走り寄ってくる彼は、成る程犬によく似ている。
その上、犬より愛らしく従順とくればあのドイツが可愛がるもとい構いたがるのもよく分かる。



「例の読める空気の話なんだけどな」
「あれねーあの後俺も一人で探したんだけど見つからなかったよ」
「やっぱり俺はハワイとかにあると思うんだよ」
「ヴェー俺ん家からは遠いねー」



見つかるはずが無いじゃないか。だって読める空気なんて、この世のどこにも存在しないのだから。
自分から話を振っておいてそんな事を思う。

読める空気が無いことぐらい知っていた。そんなもの、イギリスの妖精なみに存在するはずがない。
空気とは物質であり、文字では無い。
『空気を読む』と言うことがその場の空気を読みとる、という意味だと言うことは当然分かっている。


何故分かっているのにこんな茶番をするのかといえば、信じている振りをすればそれを探しているふりをすればイタリアと共にいられるから。
家も遠くて、特に繋がりもなく、年も違い、しかも敵。そんな彼と共通点など在るはずがない。
ならば、作るしかないじゃないか。




「だからさ今度一緒にハワイに来ないかい?」
「いいね!行く行くー」


楽しそうに笑うイタリアに安堵する。ああ、成功だ。
きっとイタリアはデートであることを気づいていないだろうが別にいい。

“読める空気”に心底感謝をする。
イギリスに文句言われながらも日々あえて空気を読まなくて良かった。



「じゃ、じゃあ何時が空いて・・」
「ドイツー!にほーん!アメリカがハワイに行こうってー!」
「え・・」


向こうにいるドイツ達の方に大声を上げながら走っていくイタリアを呆然と見つめる。

そうだ、忘れていた。
自分のはあえての『AKY』だがイタリアは本当の天然の『KY』だ。


「ジーザス・・」


ドイツや日本の哀れみの視線が無性にむなしかった。

end
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