Um romance

□目を奪われるほどに
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人を“綺麗”と“汚い”と分類するならば自分は“汚い”に属するのだろう。
そして今、自分の膝を枕にして昼寝(彼の家の言葉で言えばシエスタ)をしているイタリアは“綺麗”なのだろう。まぁ、実際自分も彼も人では無いが。




(本当に無垢な寝顔だ‥)



だらし無く口を開けて眠りこけるイタリアはまるで汚れを知らない赤ん坊のようで。夕焼けの赤い日が彼の幼い顔を照らす。

まさかこんな彼の実年齢が四桁を裕に越えるとは誰も想像だにしないだろう。事実同じ国である自分から見ても彼が国であるとはにわかに信じがたい。


国として形状を維持し、生きていく。それには並々ならぬ努力と苦労と汚れることが必至だ。
嘘をつき、他国を蹴落とし、人々を殺す。

綺麗なままではいられない。血で濡れないなんて不可能だ。
そんなこと何千年と生きてきた自分がよく知っている。
そうあることが、そうあろうとすることが、どれほどの苦痛を伴うことかも。



だというのに。
今、自分の膝の上で寝息を立てている彼はこんなにも美しく、綺麗だ。
世界で1番ヘタレと呼ばれる彼が、自分が屈した身を切るような痛みを乗り越え今ここで寝ている。

この閉じられた瞳が他人の為に涙を流し、このだらし無く開いた口が他国の為に嗚咽を漏らす。
そんなイタリアを見ていると鈍って麻痺していたはずの感情が溢れ出す。




「本当に貴方は美しい人だ」



ぽつりと零した言葉が届いたのか膝の上のイタリアがふるりと瞼を開けた。大きな瞳を縁取る長く赤い睫毛が光を孕み、つい目を奪われる。


「ん、おはようー日本」


微笑みながらそう言うイタリアは本当に綺麗だった。

end
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