Un roman

□Eine Entführung
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イタリアが誘拐された。
それを知ったのは約30分前にかかってきた一通の電話。
イタリア政府に問い詰めると渋々といったようにその事実を認めた。政府としては“国”を誘拐されたというスキャンダルはできれば隠したかったのだろう。



気をつけていなかったわけではない。

イタリアの治安がお世辞にも良いとは言えないことはしっていたし、イタリアは“国”だ。
それこそ政府はイタリアのためならどんなに高い身代金でも払うだろう。
加えて、イタリアはあの容姿だ。一人の男、としても十分に価値がある。




『――っドイツ!助けてっ!』



切羽詰まったイタリアの声ですぐに切れた電話の向こうの彼の状況がいかに芳しくないかが分かった。

情けない自分に心底腹が立つ。
無論、国という立場上毎日一緒にいてイタリアを見守る事など出来ないことなど分かっている。自分に落ち度はなかった。

そう言い聞かせても腹の奥からふつふつと湧き上げる自責の念と怒りを押さえる事などできはしない。

もし、これで最悪の場合彼が死んでしまったら・・?
もうあの瞳に自分は移ることはなく、あの声が自分の名を呼ぶことはなくなってしまったら・・?



「くそっ!」


苛立ちに任せ、ばんっと机をたたく。デイジ−の生けられた花瓶が音を立てて倒れる。
確かこれを飾ったのはイタリアだった。

会えない時はこれを俺だと思ってね、と自分の国花をあの美しい笑顔で飾っていた姿を思い出す。
もうあの笑顔を見ることは出来ないのだろうか?
それはもう自分も死んでしまうのも同じだ。いや、彼の死は自分が死ぬより他の誰かが死ぬよりずっと辛い。


「イタリア・・」


自分の声の情けなさに目を覚ます。

そうだ、こんな事をしている場合では無い。助けに行かなくてはいけないのだ。
まだ、イタリアは生きている。
ならばやらなくてはいけない事があるはずだ。


「待っていろ、イタリア」


きっと震えて泣いているイタリアに小さく呟き、急いで部屋をでた。

****

寒い。秋とはいえ、風が冷たくなってきた。
流石にシャツ一枚では堪える。


(ここ、どこ・・?)


一見して倉庫のようなコンクリートで出来た部屋。床のひんやりとした感触が次kない伝わり余計に冷たく感じる。

周りを見渡そうと縛られた体をぎしりと動かす。
先ほどの電話のせいで縄を余計にきつく締められ体中の節々が悲鳴をあげている。

遠くで自分を誘拐した犯人らしい男達の声が聞こえた。
息をひそめて耳を澄ませる。


「おい、ありゃ結構な上玉だ。綺麗な顔してやがる」
「体型も華奢でいい。なかなか良い値が期待できそうだな」
「なぁ売る前に俺らでヤらね?」
「良いんじゃないか?ぶっつけ本番の前の予行練習ってやつだ」


どうやら自分は“国”としてでは無く、一個人としてつれて来られたらしい。
国問い事がばれていなかった事に少し安堵する。しかしこの話の流れから察するにどうやら自分は男娼として売られるか何かするらしい。
しかもこのままいくと彼らに襲われてしまう。


(逃げなきゃ・・っ!)


縛られた体で必死にもがく。
どうにかしてここを脱出しなくては、もうみんなに会えなくなってしまう。
大事な友達にも、大好きな兄弟にも、愛する恋人にも。


「おいおい上玉ちゃん逃げるつもり?」
「っ・・!」
「怯えた表情もそそるな」
「商品に手荒な真似はしねぇから安心しな」
「やっ!」


男の手がイタリアのシャツの最後のボタンに手をかけようとしたその時、男達の背後の扉が派手な音を立てて爆発した。
壊された扉の破片がイタリアのもとにまで届く。


「なっ!?」


驚いたように男達が立ち上がる。
煙の向こうに見慣れたムキムキな影が見えた。あまりの喜びに息が詰まる。


「ドイ・・」
「貴様ら、覚悟は出来ているのだろうな?」


聞いたことも無いような低音と気迫のある声で凄む恋人につい言葉を途中で切る。
何十年も一緒にいた。彼の泣き声も笑い声も怒った声も数え切れない程聞いてきた。

それでもこんなにも怖い、怒った声は聞いたことが無い。

先ほどまで饒舌だった男達も恐怖のあまりに固まって動けずにいた。


「俺の大事な人を危険にさらした罪は万死に値する」
「ちょ、待っ」
「死んで詫びろ」
「駄目っ!!」


銃を構え、引き金を引こうとしたドイツの腕に咄嗟に飛びつく。
焦点のずれた弾は彼らの頭ぎりぎりをかすめ、コンクリートの壁にめり込んだ。

銃口を向けられていた彼らは弾が当たらなかったのを確認すると一目散に壊された扉に向かって走っていった。

それを追おうとするドイツの首に思いっきり飛びつく。



「ドイツ助けに来てくれたんだね!」
「あ、ああ。しかしイタリア・・」
「いいの!助かったんだもん!殺す必要は無いよ!」
「だが・・」


ドイツの手に握られた銃を抜き出し、地面に捨てる。
まだなにか不満そうなドイツににっこりと笑ってみせた。


「俺は生きてるよ、ドイツありがとう」
「でも危ない目にあっただろう?」
「だけど生きてる。どんな理由があっても人は殺しちゃ駄目なんだよ」


分かった?と尋ねると恥ずかしそうに頷くドイツの唇に優しくキスをする。
また会えた。もう会えないかと思ったのに。もうこうやってキスをすることも抱きしめられる事も無いかと思ったのに。
またこうして会うことができた。

頬に熱い涙が伝う。


「ドイツ」
「イタリア、」
「もう、っ会えないかと思ったよ」
「俺もだ、愛してるイタリア」
「俺も」


ゆっくりともう一度、俺達は確かめ合うように唇を重ねた。


end
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