Un roman

□愛に不慣れな
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幸せとは程遠い人生をおくってきた。
自分でいうのもなんだが多分、こんなにも幸せから掛け離れた生活はなかなかおくれたもんじゃないと思う。

生まれたときから兄さん達には憎まれ、回りには友も無く気を許せる場所もない。
唯一のよりどころであったはずの弟にも独立された。
もちろん、その分あくどいことや汚いことも数え切れないほどにやってきたけど。

今まで生きてきた数千年を振り返ってみても楽しかったり幸せだったりすることは片手で数える程度しかない。
向けられる感情は愛ではなく憎悪。

しかしそれが理不尽だなんて感じる事すら、そんな劣悪な環境に慣れた俺には出来なかった。



だから、かもしれない。
俺は幸せに不慣れだ。


愛してる、そう耳元で囁かれるだけで、壊れ物を扱うかのように抱きしめられるだけで、優しく接せられるだけで、嬉しい気持ちは大粒の涙となって流れ出す。

憎まれる事、恨まれる事には慣れている。
でも愛される事、優しくされる事に不慣れな自分は嬉しさを嬉しいと表現することすらできないのだ。



「君は泣き虫だね」
「っうるせぇよ」



誰も泣きたくて泣いているわけではない。ただ止まらないのだ。

愛されていることが幸せで、幸せであることが嬉しくてその感情をどう処理すればいいのかがわからなくて。
嬉しいのだから笑っていたいとは思っているのに。




「あんまり泣いているとか目が溶けちゃうよ」
「そ、そんなに泣いてねぇだろっ!」


ゴシゴシと乱暴に涙をぬぐう。
今、自分が幸せであるという証拠である涙が何故だか非常に愛おしい。




「愛してるよ」
「‥俺も愛してる」


自分の言葉にしてまた溢れてくる涙は拭われることもなく頬を伝って床に落ちていった。


end
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