Un roman
□両思いまたの名を片思い
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「俺、兄ちゃん大好き」
嗚呼、そんな満面の笑みでそんな事言わないで欲しい。
胸が早鐘を打ちすぎて死んでしまうかもしれないから。
「好きって‥あのなぁそんな軽々しく」
「なんでー?好きなんだからしょーがないじゃーん」
その言葉が、俺の欲しい言葉の意味では無いことは重々理解している。勘違いをするほどイタリアとの関係は浅くはない。
だというのに高鳴る胸に自分でも呆れてしまう。
恋愛には慣れている方だと思っていたのにまさか好きごときに心臓の鼓動を不安定にさせられるなんて。
無意識にため息が零れる。
「フランス兄ちゃんは俺の事好きじゃないの?」
「‥好きだよ」
良かったぁ、と笑顔になるイタリアに頭が痛くなる。
違う、違うんだ。俺の好きはお前の好きじゃない。
お前の好きは俺が欲しい好きじゃないんだ。もちろんその好きがいらないわけではないけど。
「兄ちゃん好き好き好きー」
「‥はいはい」
声にいささかあきらめの色が滲んでしまうのも許して貰いたい物だ。
これほどの相手に何百年と恋をするなんて並大抵の労力じゃない。
そうとうの馬鹿かマゾヒストか、はたまた抜け出せないぐらいにぞっこんか。
俺はたぶん最後のだと思うな。
「えへへー兄ちゃん大好きだよっ」
「‥俺もお前が大好きだ」
「じゃあ俺達両思いだねー」
「‥そうね、ある意味では」
恋愛の意味の好きと親愛の意味の好きは釣り合うのだろうか?
釣り合わないのだとすればイタリアも俺もれっきとした片思いだ。俺の思いはどうやらなかなか届かなそうだ。
「お前はドイツも日本もプーもスペインも大好きだろ」
「うんっみんな大好き!」
ああ、一瞬でも期待した自分を殴ってやりたい。
そうだよな、と自嘲気味に微笑んで空を見上げる。
綺麗な空を見るためであって決して涙を堪えるためためでは無いことはしっかり言っておこう。
空は気持ちが良いくらいの曇りだったけど。
(あ、兄ちゃん泣いてるー)
(泣いてねーよ、これは汗だ)
end
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