Un roman
□俺の俺だけの
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愛してる、そう耳元で囁けば俺も、と少し恥ずかしそうにしかし嬉しそうな声音で返事が返ってくる。
その言葉を疑っているわけではない。
彼が心から自分を愛している事も知ってるし、彼が浮気なんて器用な真似が出来る程にしっかりした性格ではないことも知っている。
でも、だからといって無防備で誰にでも人懐こい弟に不安を抱かないわけではなくて。
「あのねっそれでドイツが俺の事抱き上げてくれて」
だからせっかくの二人の夜なのにそんな風にベッドの中でまで楽しげに他人について、しかもジャガ芋についてなんて話されたら、
「ッヴェネチアーノ!」
「わっ!兄、ちゃん?」
こういう状況になってしまうのもしょうがないと思う。
これでも我慢した方だと思う。でも2時間。2時間も布団の中でこんな話を聞かされて黙っていられる程、俺は大人じゃなかった。
仰向けに寝ていた体を反転させてヴェネチアーノの顔の横に両腕をつき、覆いかぶさるような体制になる。
体を動かすたびにベッドが二人分の重さに悲鳴をあげてギシギシと音を立てる。
ベッドの脇に置かれたライトが辺りを薄暗く照らす。
薄暗い中で見たヴェネチアーノの大きく見開かれた澄んだ茶の瞳の中の俺は自分でも驚く程に冷たい表情をしていた。
「え何!?ごめんなさいごめんなさい!何でもするから痛くしないでぇ!」
「お前は俺のものだ」
「え・・?」
嫌なのだ。
この瞳が自分以外の姿をうつすのが。この声が自分以外の名を呼ぶのが。この指が唇が自分以外に触れるのが。
「俺だけにしろ」
「何、を?」
「なにもかも」
怯えるような表情なヴェネチアーノの唇に自らのそれを重ねた。
お前が瞳にうつすのも名を呼ぶのも触れるのも自分だけにして。
そう望んでしまうことが間違っているのだとしても。
ちゅっと音を立てて唇を離すとヴェネチアーノは慌ててそばにあった布団をたぐり寄せて真っ赤な顔を隠した。
「おい、ヴェネチア?」
「もう兄ちゃんの馬鹿・・」
「うっ」
「何が俺だけにしろ、だよ」
「や、その・・」
「お前は俺のものだとか・・」
「わ、悪い・・」
「兄ちゃんちょっと格好良すぎ・・」
「えっ?」
「〜っもう知らない!!」
そう少し見える耳を真っ赤にして呟くヴェネチアーノが可愛すぎて。
つい衝動的に布団をひっぺがしてその誰の物でもない、俺だけの唇に情熱的なキスをした。
end
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