Un roman

□もしも世界が愛で満ちたら
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『愛は世界を救う』

誰が言ったか忘れたが聞いた当初は夢見がちだと笑ったそれは今になってみるとなかなか的を射ていると思う。

好きな人を想うとはなんと素晴らしい事か。

スペインにとって兄弟のように育ってきたイタリア。
そんな彼に対する恋心を自覚したのは数ヶ月前。恐らく好きになっていたのは何世紀も昔からだろう。

それから兄弟みたいなものなのに、とか男同士なのにとか色々悩んで結果吹っ切れたのが先月。
そこからは薔薇色な生活だ。

瞼の裏に微笑む彼を見るたびに、耳の奥の彼の楽しげな声を思い出すたびに胸はうきうきと弾み、頬は自然と緩む。
目に見える全てのものが美しく、耳に聞こえる全てのものが愛おしく感じた。
何もかもが面白おかしく、何もかも寛大に受け止められる気すらした。


世界中の人々が誰かに恋をしたらきっと戦争も差別も消え去り、この世は平和になるのだろう。
皆、恋をすればいいのだ。





「さっきから何ニヤニヤしてんだ、チクショー」


さも気持ち悪そうにロマーノから吐き出される憎たらしい言葉も今はかわいらしくさえ思える。さても恋とは恐ろしいものだ。



「んー何って好きな子の事考えてんねん」
「はぁ?スペイン、てめぇ好きな奴なんかいたのかよ」
「おるでーめっちゃ可愛いんや、髪ふわふわしとって華奢でなぁ」
「‥ふーん」
「目とかホンマに綺麗な茶色しとってな、声もソプラノっぽくて素敵やし、ちょっと天然だったりすんのも可愛いしそのくせ意外と気配りやさんなのが最高や〜」
「‥‥チッ」



またイタリアの姿を脳裏に描いてによによしてしまう口元を押さえられない。
ブラウンのふわふわとした髪、紅茶色の甘そうな大きな瞳に白くてキメの細やかな肌、成人男性にしては高めの声、自分の想像であり本人がいるわけではないとわかって
いてもつい胸が高鳴る。
によによするスペインを鋭い目で睨み付けるロマーノ。姿形は似ているというのに全く心は揺れない。

それは多分、自分がイタリアに見た目以外の所にも惹かれているからなのだろう。




「‥‥譲るか、コンチクショー」
「んーロマなんか言ったか?あ、そやロマは好きな人いてへんの?」
「‥お前には言わねー」
「あ、おるんやなおるんやな!ほら親分に話してみぃ?どんな子なん?」


ぐいぐいと身を乗り出すとロマーノは少し考えてから面倒臭そうに頭をかいた。
それが照れ隠しだという事ぐらいすぐ分かる。伊達に長いこと一緒にいるわけじゃない。
だからこそ余計にロマーノの想い人に興味がわいた。



「‥目が大きくて睫毛が長くて」
「ふんふんっ」
「細くて声が高くて髪が明るい茶で、」
「成る程な」
「俺とは全然違って気が利くし優しいし細っちくてヘタレで」
「‥‥そうなん」
「でも料理も上手いし絵書いたりすんのも得意で」



だんだんロマーノの言う人物が誰だか分かってきて、それと一緒に気分も下降してきて。
同時に先程睨まれていた本当の意味もロマーノが少し考えてから話始めた理由さっきなんと呟いたのかも分かった。




「‥意外やなぁロマはあんましイタちゃん好きちゃうのかと思っとたのに」
「まぁ弟としては、な。スペインこそヴェネチアーノのことは兄弟として好きなんだと思ってた」
「俺もちょっと前までは自分がイタちゃんの事愛しとるとは思わんかったわ」
「俺だってそうだよ、」
「あーあ驚いたわぁ‥これで俺達は晴れて敵同士やな」
「‥てめぇなんかにゃ絶対ヴェネチアーノは渡さねぇからなチクショー」



先まで薔薇がとんでいた世界は一転して今はまるでドロドロとした沼地のようだ。
浮かれていた気持ちは覚めた冷たい感情に代わり、美しく感じていた全てのものが気にならなくなった。

負けたくない、譲りたくない、触らせたくない。そんな気持ちが渦巻いて胸を締め付ける。



「親分としても負けるわけにはいかんなぁ」


にやりと不敵に笑ってみればロマも対抗するようににやりと笑う。

嗚呼今、分かった。
世界中の人々が誰かに恋をしてるからこの世はこんなにも混沌としているのだ、と。


end
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