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□嘘と理不尽
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からかわれ、馬鹿にされ、遊ばれる。

いつもいつもそうだ。自分は余裕ぶって、わたわたと取り乱す俺を見て楽しんでいるんだろう?
腹が立つ。何百年も年下の、しかも自分の元弟にそんな態度をとらせたままでは俺のプライドが許さない。
だからって怒ってみても素知らぬ顔で「ごめん、君があんまりにも可愛いから」なんて言っちゃって。そこで嬉しくなる俺も俺だけれど。

だから考えたんだ。どうしたらお前に仕返しができるか。
お前が慌てて、照れて、余裕を無くす、そんな仕返し。平和ぼけで鈍った頭を必死で回転させた。

そして気がついた。
四月一日。エイプリールフール。一年の中で、嘘をついても許される日。
そんな日が三日後に迫ってきているということに。






「お、俺妊娠したんだ‥」


そう告げると目の前に座っていたアメリカぶっと朝食であるシリアルを勢いよく吹き出した。


「なっな、なんだって!?」
「だ、だから妊娠・・」


身を乗り出して半ば叫ぶように尋ねるアメリカについ、下を向いてしまう。

妊娠なんてもちろん嘘だ。あのあと良い嘘が思いつかなかった俺は東洋に浮かぶ唯一といえる友達に連絡をした。
すると彼はそれならば、とこの嘘を奨めてくれたというわけだ。

しかしこの嘘、どうなのだろうか。さすがに信じないだろうこれは。
だいたい妊娠って・・。
そうだ、よく考えてみればいや考えてみなくとも俺が男だと言うことはもう充分過ぎるほどアメリカは知ってる。
こんな馬鹿らしい嘘、引っかかるわけがないじゃないか。
思慮深いと定評の友人にたいする信頼にかまけて見失っていたけど、この嘘ってあまりにも馬鹿げている上に非常に恥ずかしいものなのではないだろうか。

そう思うと変な事を言ってしまったと今更ながら後悔する。


「・・男の子?女の子?」
「は?」


どうしたものかと思案を巡らしていると未だに顔にシリアルをつけたアメリカが俺に聞いた。
驚いて思わず顔を上げると恥ずかしそうに真っ赤になりつつも、嬉しそうな表情のアメリカの顔。


「だから男の子なの?女の子なの?」
「・・・男」


追いつかない思考の中、なんとかそう言うとそっか。とアメリカは優しそうに微笑んだ。
そして立ち上がると俺の背後にまわり、後ろからぎゅっと抱きつく。


「予定日はいつ?」
「それは・・まだ・・」
「子供部屋もつくらなきゃだね」


つらつらと話すアメリカをよそに俺はアメリカの反応に驚いていた。

まさか、そんな、信じてる?我が弟ながらなんというアホだろう。
目の前でにやけるアメリカにため息をつきたくなった。
にやにやして、それでも恥ずかしいのか頬は少し紅潮している。

いい様だ、馬鹿野郎。少しはからかわれるこっちの身も分かったか。

そう言ってやる、つもりだった。
でも。目の前で嬉しそうに子供ができたらと話しているアメリカを見ると良心がちくりと痛んだ。
嘘なんだ。子供なんていない。
そう伝えるのはまるでこんなに喜んでくれた彼にたいする裏切りのようなきがして。


「・・子供、欲しかったのか?」
「勿論じゃないか!俺と君の愛の結晶だぞ!?」


嬉しそうなその笑顔に申し訳なさに涙腺がゆるむ。


ああ、どうしよう。嘘なのに。ごめん、ごめんアメリカ。
俺男だから、どんなに頑張っても子供なんて産めめぇよ。お前が欲しいって言っても、与えてやることはできないんだ。


「うっ・・うぅ・・」
「イギリス!?どうしたんだい!?陣痛!?」
「ち、違っ・・ごめ、俺・・嘘、なんだ」
「え?」
「今日、エイプリールフールだからって・・お前にやり返してやろうって・・子供なんて、俺・・」


申し訳なくて情けなくて悔しくてぼろぼろと目から涙を流した。
子供のように声をあげて泣く俺にアメリカははぁとため息をひとつ零すとよしよしとあやすように頭を撫でた。

しゃくりあげながら目をあけると滲んだ視界いっぱいに広がるアメリカの顔。
ちゅっと音を立てて離れる唇にアメリカを上げる。


「もう、俺本当に信じちゃったじゃないか」
「ご、ごめ・・」
「いいよ、怒ってるわけじゃないし」
「でも子供、欲しかったんだろ?」
「まぁね」


その言葉にまたじわりと目頭が熱くなる。子供なんて、どうしたって俺じゃ産めないのに。
その様子にアメリカが慌てたように付け足した。


「でも!俺はイギリスといられるだけでもう幸せなんだから!もー泣かないでくれないかい!?」
「で、でも俺・・」
「あーっ!もう五月蝿い!分かったそんなに言うなら有言実行で今から子作りするぞ!」
「なっ!子作りってお前、俺は男で・・」
「何百回もやったら神様のきまぐれかなんかで子供ぐらいぽんってできるこもしれないし!」
「な、何百!?ぽんってお前子供をなんだと・・ぅむっ」


言い終わる前に遮るように唇を奪われる。
さっき着たばかりのシャツに伸ばされる手の気配になんでこうなったんだろうと人ごとのように考える。
ただ、俺は仕返しをしようとしただけなのに。



「・・理不尽だ」

そう呟けば「世の中ってそんなもんさ。」と達観したような答えが返ってきた。


end
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