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□初めてだから
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「た、誕生日おめでとうっ」




大声で言われた誕生日祝いの言葉と目の前に差し出された薔薇の花束に布団の中で目をぱちくりとしばたかせた。乱暴に突き出された薔薇が何枚かの真っ赤な花びらをひらひらと散ってシーツの上に落ちる。

突然のことすぎで動くことができないでいると兄ちゃんにぼかりと頭を殴られた。



「痛いよ兄ちゃん〜」
「うるせぇ!早く受け取れコノヤロー!」



殴られた頭を押さえて涙目で見上げれば薔薇と同じぐらいに真っ赤な顔をした兄ちゃんがまだ下半身布団の中の俺に押し付けるように花束を渡される。
ふわりと薔薇の良い香が鼻をくすぐった。
良い匂い、良い匂いだけれど理解ができない。
一体今日はどうしたというのだろう。
いつもは俺より朝が弱い兄ちゃんが俺より早く起きて、しかも下ろしたてのダブルスーツに身を包み俺に薔薇を差し出している。

誕生日だから?
けれど今までだってプレゼントどころか『おめでとう』すら言ってくれはしなかったのに。



「‥初めてだろ?」
「え?」



耳まで赤く染まった兄ちゃんが気まずそうに俺から視線を逸らして呟く。
初めて?何が?プレゼントが?『おめでとう』が?
まだ分からない俺に兄ちゃんが焦れたように頭をかいた。



「だから!恋人になってから初めての誕生日だろ!」
「あ、」



やっと分かったか馬鹿とおでこを指で弾かれる。
じんじんと痛む額を押さえながら腕の中の花束を見つめた。


俺達が付き合い始めたのは半年前。
そうか、だから兄ちゃんは‥



「ヴェ?」



薔薇の中にピンク色のカードを見つける。がさがさとそれを手に取るとそこに書いてあるのは乱暴な見慣れた字体。


『tiamo』


慌てて顔を上げれば兄ちゃんの恥ずかしそうな横顔。
きっと兄ちゃんのことだから書くか書くまいか迷って、書いた後も渡すか渡すまいか迷って、迷いに迷って入れたんだろう。


その乱暴な字がそっぽを向く恥ずかしそうな横顔が愛おしくて愛おしくて。




「大好き兄ちゃん!誕生日おめでとうっ!」



布団から飛び出して兄ちゃんに飛び付いたらスーツがシワになると怒られた。


end
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