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□嫌い、きらい、キライ
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「イタリア」
嗚呼、そんな甘ったるい声で俺の名前を呼ばないで。拘束されて自由に動かすこともままならない手で耳を塞ぎたくなるから。
俺は硝子をひっかく音より黒板に爪を立てる音より何より貴方のその声が世界で一番嫌いなんだ。
「愛してる、この世でただ一人お前だけだ」
耳元の貴方のその声が俺の耳から脳内に侵入することさえ俺に恐怖と不快感を与えるんだ。
愛してる?一体誰を?声に出さずに問い掛ける。
貴方は誰に話しているの?
貴方が見て愛でているのは俺という固体であって俺という存在じゃない。
真実を映していない瞳で愛してると囁くなんてナンセンスだ。
貴方が発するだけで世界で一番尊い言葉はただの文字の羅列のように意味の無い空虚な言葉になる。
すごいね、貴方は。俺大嫌いだよ、貴方の事。
声だけじゃ無い。その優雅な動作も端整な顔も躯も性格も貴方のものであるというだけで吐き気がするほどに、嫌い。なのに貴方は俺を触る。あやすように、愛でるように、慰めるように。
今だってほら。優しく頬を髪を腿を撫でる手にぞわりと悪寒がはしる。
「イタリア、俺の名前を呼べよ」
嫌だよ嫌。貴方の名前なんて。
どんな呪いの言葉よりもどんなスラングよりも口にしたくない。貴方の名前を呼ぶたびに俺は自分が汚れる気がする。心の中でさえ貴方の名前を考えすらしないのに。
嗚呼けれど。俺には貴方の願いを命令を退ける権利もなければもはや意志もなかった。
ゆっくりと口の両端を吊り上げ、目を細める。これを笑顔、と呼ぶにはあまりに稚拙だけれど、もう自分はこうする以外の笑い方を覚えていないから。
「イギリス」
幸せそうに微笑む貴方に心の底から吐き気がした。
end
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