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□来年も再来年も
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料理は苦手だ。
認めたくないけど、それは残酷なほどに真実で。
全く上達しない料理の腕は一体何百年いや何千年、この焦げたスコーンを作り続けてきたのだろう。
「‥まずいんだぞ」
口に入れた途端に吐かれた厳しい、というか心ないアメリカの批評にうっ、と唇を噛む。
机を挟んで正面に座るアメリカの表情は失礼にもその渋い顔を隠そうともしない。
悔しいが、何も言い返せない。
目の前に積まれたイタリアいわく食べ物にすら見えない焦げに焦げたスコーンに自分も手を伸ばす。
掴んだ時点でスコーンもどきはボロボロと崩れ、匂いも香ばしいどころかどぶのような臭いすらする。
正直これは自分でも酷いと思う。
けれど、何がひどいってこの出来栄えがここ何週間で1番良いということだ。
今日のために何週間も準備した。
イタリアやフランスに何度も教えて貰い、材料もせめてと高級な食材ばかりだ。今となってはその姿は真っ黒な消し炭になってしまっているのだが。
それも全て今日という日のため、そして目の前でスコーンの臭いを嗅ぎながら眉を寄せている男のためだ。
「す、すまん‥」
「どうすればこんな惨状に出来るんだい?」
「うぅ‥」
ああ本当に駄目だ。なんたってこんなにも自分は駄目なんだろう。
イタリアにもフランスにも食材にさえも申し訳なくなってくる。
こんなもの出さなければ良かった。
ちゃんとした店で美味いチョコレートを買ってくれば良かったのに。
今年こそは今年こそはと妙な意地を張ってしまったのだ。嗚呼本当に自分は馬鹿か。
「こ、これからは作んねぇで買うから‥」
ぽそりと呟いたその言葉にアメリカがぴきんと動きを止める。
手に持っていた食べかけのスコーンをじっと見つめ、何を思ったか拳ほどの大きさのそれをぱくりと口の中に詰め込んだ。
「なっ、アメリカ!?」
「確かにまずいけどさ」
ごくりと喉仏を上下させそれは見事に飲み込んだアメリカは指で口の回りの黒いスコーンのかけらを拭った。
その手はそのままスコーンを掴んでいたイギリスの手に伸びる。
「これがいいな、来年も再来年も」
「っ‥!」
ぱくりと持っていたスコーンをくわえられ、驚きのあまり飛び上がって椅子から転げ落ちる。
尻餅をつきながら真っ赤になっているイギリスとは裏腹にアメリカはも何事も無かったかのようにそもそとスコーンを紅茶を流し込むように飲み干す。
「あ、イギリス紅茶お変わり」
「じ、自分で煎れろ馬鹿ぁっ!!」
「イギリスが煎れる紅茶が飲みたいんだぞ」
「っ分かったよ」
そこまで言われたら煎れ無いわけにはいかず、床から立ち上がりキッチンに向かおうとアメリカに背を向けた。
その瞬間、がはっと後ろから長い腕に絡めとられ抱きしめられた。抱きしめているのは疑うまでもなくアメリカで。
「ば、馬鹿っ離せ!紅茶‥っ」
「イギリス」
「っんだよ‥」
「Thanks for Happy Barentain」
「っ‥」
耳元で吹き込まれるように囁かれた言葉に息を詰まらせた。
ああ、きっとまた来年も自分はこうしてアメリカにまずいスコーンを振る舞っているのだろう。
そしてまた嫌な顔をされてまずいだなんだと言われるんだろう。
それでも、いい。むしろそれがいいんだ。
そう思ってしまった。
「イギリス」
後ろからの声に答えるように振り返り、スコーンの苦みと紅茶の甘い味のする唇にキスをした。
end
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