Новый

□歳
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(嗚呼、また歳をとってしまった‥)


縁側に座りながら冬の寒々しい空を見上げ、ため息をつく。また一つ、歳をとってしまった。

いつから歳をとるのが嫌になったんだったか。昔は誕生日ともなれば指折り数えて待っていたのに。
今はただ歳をとるのが憂鬱で仕方がない。何千年と生きてきて今更一つ歳を重ねたからといって何も悲しむこともないのだが。

きっとこの鬱々とした気分はどんよりとしたこの暗い天気のせいもあるのだろう。もう一度ため息を零し、よっこらしょと立ち上がる。

よっこらしょ。その言葉を口の中で反芻し一人で苦笑する。
無意識にそんな事をいってしまうとは本当に自分は歳をとったものだ。
見た目がいくら若くても中身も性格も全くの爺さんだ。


「本当に、誕生日とは厄介なものです」
「えーなんでー?」
「イ、イタリア君!?」


後ろから聞こえた声に驚いて振り返る。そこにはワインを抱えたイタリア。
全く気がつかなかった。
彼は時たまこうして黙って家に入ってきたりするが、気配に敏感な自分はすぐに彼の来訪に気付いていた。
というのに。今回は全く気付けなかった。ああ、これも歳をとったせいだろうか。


「イタリア君、来ていたなら言ってください。驚いてしまいました」
「ヴェーごめんねー、ドア開いてたから」


ドアが開いていたからといって入ってきていいものではないだろう。しかしそれ以上彼を叱る気になれないのも爺心、とでもいうのだろうか。
今日は何かにつけ、歳を感じてしまう日だ。全く本当に誕生日なんてものは。


「ところでどうしたんです、今日は?」
「どうもこうも今日は日本の誕生日じゃん!おめでとういいに来たんだよー」
「それは‥ありがとうございます」


正直、驚いた。自分はアメリカ達とは違いパーティーなどを催していない。
故に誕生日祝いなど誰からも期待していなかった。


「ドイツもねー仕事終わったらすぐ来るって」
「なんだか申し訳ないですね‥」
「なんで?」


不思議そうな表情のイタリアに少しで身じろぐ。

わざわざ手間をかけてしまったことが申し訳ない、仕事場からすぐに来ていただくことが申し訳ない。
これは可笑しいのだろうか?


「せっかくの日本の誕生日だもん、ドイツだって来たくて来るんだよ」


もちろん俺もだよ、と当然といった笑うイタリアについ言葉を失ってしまった。


「日本?どうかした?」
「・・いえ・・」


嬉しかった、本当に。
自分の誕生日だから、来たい。そんなのって嬉しくないわけがない。
ああどうしよう、この年になってこんなに誕生日が嬉しい。
こうやって祝って貰えるなら歳を取ってしまう憎らしい誕生日も悪くないかもしれないと思ってしまうほどに。



「あ、これ持ってきたからご飯の時にあけよー」
「ありがとうございます。ではドイツさんがご到着するまえにご飯作ってしまいましょうか」


あんなに嫌だった自分の誕生日が誰かに祝ってもらうだけでこんなにも嬉しいものになんだなんて。
案外自分は単純なのかもしれない。


天気は未だにどんよりとしているが、気分は最高にうきうきとしていた。


end
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