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□女性には
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女性には紳士的に接する。

それが人として、男としてのマナーであり誇りであり常識であるというのがイギリスの考えだ。
男とは女とではどんなに平等といわれても体格という越えられない大きな壁がある。
それを持ってして男が女性に対して乱暴な振る舞いをすることはあってはならないことだ。

どんなに荒くれ者であろと不細工であろうとそれが女性であるならばそうあるべきだ。

物心ついてから今まで、ヤンキーだった頃も含め貫いてきたこのポリシーは勿論のように弟分だったアメリカにも嫌というほどに教え込んだ。
いや、教え込んだと思っていた。




放課後、授業が終わりいつものように一緒に帰ろうとアメリカが待っているだろう彼の教室に向かって歩いていた。
とっくに授業の終わった一年の階には人気がなく自分の足音だけが響く。


「ア、アメリカ君!あの‥‥」


目当ての教室の前に来たとき、中から聞こえた声に扉に伸ばしかけた手をぴくんと止める。
そっと引き戸との間に出来た隙間から中を覗くと一人の女生徒がアメリカに向かってなにやら思い詰めたような面もちで立っていた。

声の感じや雰囲気からしてこれから何が始まるのかはだいたい予想はつく。
そっぽを向いていたアメリカがふと女生徒の方を見やる。ずきりと胸が締め付けられる。


「これ!」


ほら、来た。
アメリカに手紙を差し出す女生徒に心の中でそう呟く。

自分とアメリカが付き合ってることは何時の間二やら周知の事実だ。
それをふまえて尚、イギリスにもアメリカにもこの手のことがよくある。

腹立たしい、むかつく。自分は誰に告白されようとアメリカ以外と付き合う気などみじんも無いというのに。

舐めんなよ、くそが。だれがてめぇみたいな不細工と付き合うかよ。調子にのってんじゃねぇ。
何度口汚いスラングが口から付いてきそうになっただろう。
それでも、一歩手前で踏みとどまった。相手は女性だ。紳士的になれ。
そう自分をたしなめては温和かつ、冷静に断ってきた。


けれど、それは告白されたのが自分だからだ。自分だから我慢できた。

奥歯をぐっと噛みしめる。くそ、女だから何だって言うんだ。
飛び込んでいってぶん殴ってやろうか。そう思って腰を浮かせたときだった。


「笑わせないでくれる?」


今まで黙っていたアメリカが彼女の手から手紙を抜き取るとびりびりと破き、そう言い放った。
目を、耳を疑った。
そんな、あのアメリカが。


「君ごときじゃ、俺とは釣り合わないよ」


冷酷な、残忍な顔で無惨にも紙くずとなった手紙を宙に放るアメリカは崩れ落ちる女生徒にも目もくれずに立ち上がる。
そして何事も無かったかのように鞄を肩に掛けてこちらに向かってきた。


「・・なにしてんのさ、イギリス」
「い、いやその・・」


駄目だろ!女には優しくってさんざん教えたじゃねぇか!とっとと謝ってこい!
そう言うべきだろう、とは思う。しかし唇はその言葉を発っそうとはせずただただにやけるのを堪えていた。

嬉しい。嬉しいのだ自分は。
アメリカが、あの女生徒をこっぴどく振ってくれたことが。

自分でも酷いとは思う。それでも彼をなじる気にはなれなかった。


「・・帰るか」
「あ、帰り道ハンバーガー買っていって良い?」
「言い訳無いだろ、校則違反だ!」


end
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