Ein Roman

□手首の跡
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ヴェネチアーノの手首に赤い跡を見つけた。
明らかに人為的なそれは細いヴェネチアーノの手首に痛々しく、巻き付くように付いている。
まるで縄かなにかで彼の手首を縛ったかのように。





「おいっジャガイモ野郎!!!」


扉を蹴破って入るとそこには呆れたような顔でこちらをみるドイツが座っていた。
そんな表情にすら今は殺意すら湧いてくる。
椅子に座っているドイツにつかつかと無言で近づき、襟首を掴む。


「てめぇ馬鹿弟に何をした?」
「・・何のことだ?」


しれっと答えるドイツの頬を殴る。殴った右手がじんじんと痛む。
勿論こいつにその程度の攻撃がきかないと分かっていてもどうしても腹の虫が治まらなかった。
殴られたドイツは何事もなかったかのようにこちらを見つめる。


「あいつの傷のことだ」
「ああ」


それか、と頷くドイツに沸き上がる怒りを懸命におしこらえる。

ヴェネチアーノの傷。手首だけじゃない。普段は服で隠れている、背中、腹、足、腕。体中、全てが傷だらけだった。
理由を聞いてもヴェネチアーノは困ったように笑うだけで決して言おうとはしなかった。
こいつを庇うために。


「お前、ヴェネチアを傷つけて良いと思ってんのか?」
「本人も同意の上だ」
「ふざけんなっ!!」


もう一度殴ってやろうと振りあげた手を簡単に捕まれる。振り離そうと力を入れるがびくともしない。
それどころか襟首を掴んでいた腕も取り外される。

両手をとらわれた状態で、先から全く表情を変えないドイツをきっと睨む。
正直、ドイツは怖い。腕は捕まれ逃げることも反撃する事も出来ない。
しかしそんな恐怖より今は奴に対する怒りの方が勝っていた。


「あいつが!好きでんなことにつき合ってるわけなーだろ!」
「そうか?昨日はそれはイイ声で啼いていたぞ?」
「っっ!馬鹿かてめーは!!それはあいつがお前の事を好きだから・・」
「なら良いじゃないか」
「なっ!?」


つい言葉を失う。信じられないと言ったように見返すとドイツがぱっと俺の両腕を離した。
すぐに彼から離れるとドイツが面倒臭そうにため息をついた。


「お兄さん、それは俺とイタリアの問題だ。あなたが口を挟む問題じゃない」
「っっ!!?」
「いい加減、弟離れしたらどうだ?」


ふっと優越感を含んだ笑い方をして、さぁ帰れと言わんばかりに俺をみた。

やり場のなくなった怒りを蹴破られたドアに当たりながら俺はその家をでていった。

end
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