Ein Roman
□tell this feeling to you
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愛、なんてどうでもよかった。
そんなつまらない物、憧れもしなければ欲しいとも思わなかった。
それを求め、手に入れようと必死にあがき、死んでいった人間をみてきた。
また、移り変わる愛に振り回され、人生を掻き回された人間を見てきた。
永遠の愛などと吹聴して騙される人間、愛がこの世で最も美しいと解いて愛によって殺された人間、みな愚かで浅はかだ。
そんなものを目の当たりにしてきた上で愛を求めるほうがどうかしている。
愛が一体何をもたらすというのだ。
不確かでうつろいやすい、低俗な感情。
そんな感情を誰かに求めるというなはなんとも馬鹿らしく、とても間抜けな行為だ。
そう、「馬鹿らしい」。ずっとそう思っていたはずだったのに――
「愛してる」
自分の口から自然に零れた言葉。
「愛している」なんて陳腐で薄っぺらな台詞だ。ずっと大嫌いだった言葉。
そんな言葉が自分からでてくるなんて、しかもそれが本気だなんて、ついその皮肉に自嘲する。
閉じた瞼の裏でこちらに微笑みかけるイタリア。
そんな彼に込み上げてくる愛に目が眩む。
初めて感じた、この気持ちをどう彼に伝えればいいのか?愛している、以外に彼になんて伝えればいい?
「愛しているんだ」
ただそれだけ。本当にそれだけの単純な感情。
他の言葉では表現できないこの温かく、切なく、強欲な、甘い気持ち。
自分がくだらない、低俗だ、と忌み嫌っていた感情が、今自分の心の中で溢れている。
でもけっしてその感覚は嫌ではなく、むしろ心地よい。
イタリアの事を考えるだけで口元には笑みが浮かび、会えるだけで心は弾む。
誰かを愛すると言うことはこんなににも素敵なことだなんて考えもしなかった。
「I want to tell this feeling to you sometime」
(いつかこの気持ちを君に伝えたい)
end
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