Ein Roman
□Au revoir
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「兄ちゃんは俺が好き?」
振り返って尋ねるイタリアについ、どきりとした。
長年つき合ってきて始めてみたその表情は危うくて脆くて、驚くほどに魅惑的だった。
その動揺を隠すように軽薄に笑って、いつもの答えを返す。
「好きだよ、だ−い好きさ」
「あはは、嘘つき」
楽しげに笑って数歩先にいたイタリアはこちらに歩み寄る。
ゆっくりと近づくイタリアの口に浮かべられた微笑。幼い少女のようで妖艶なる美女のようなそれについごくりと喉をならす。
一体どこでそんな笑い方を覚えたのか?
「兄ちゃんは嘘つきだね」
「・・嘘じゃないよ」
「その言葉も嘘」
目の前まできたイタリアは首にかけられたネクタイをひっぱり俺の唇を引き寄せ、自らのと重ねた。
そしてゆっくりと離す。
「何が愛の国?嘘ばっかりついてさ」
「・・・」
「酷いよ、貴方は。誰も愛してないんだ」
数センチ先のイタリアは先の表情の上に涙を流していた。そのきっと何より美しいだろう滴は頬を伝い、地に落ちた。
その様子はとても欲情的で、神聖なものだった。
涙を拭おうと伸ばした手を払いのけられる。
「俺は待ってたのに・・」
「・・イタリア」
「ciao」
走り去るイタリアの先には不思議そうな表情を浮かべたドイツが立っていた。
そしておれはまた大事なものを失った。
end
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