Ein Roman

□キスマークを君に
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タッタッタっと夜道を大急ぎで走る。何も履いていない足の裏が痛い。
こんなに一生懸命になって走ったのは久しぶりだ。
慣れていない体がぎしぎしと音を立てる。しかし事態は一刻を争うのだ。


(急がなきゃ・・っ)


裸にシャツを一枚はおり、はだしでスイス領を横断する。
遠くからスイスの怒鳴り声が聞こえ、それと同時にダショーンッと威嚇であろう銃声が聞こえる。いつもならそこでビビって謝りながら走るところだがそんなことをしている暇はない。


(コレが消えちゃう前に早くっ!)




*****


夕食を食べ、プロイセンがブログを更新してくるとかで二階に上がりやっと静かになったリビングでドイツは一人、ビールをあおっていた。
ブルストをつまみに飲むビールはやはり美味しい。

(兄さんもいないし)

ひさしぶりの贅沢な静寂になんとなく安堵していると突然ドアが音をたてて勢いよく開いた。
驚いて目を見開く。そこには昨日珍しく家に帰ったイタリアが息を切らしてたっていた、シャツ一枚で。


「イ、イタリア!?」
「ドイツ!!」
「ぅおわっ!?」


勢いよく飛びつかれたドイツはドシーンッと音を立てて椅子もろともひっくり返った。いきなりの事に驚くドイツをよそにイタリアは一枚しか着ていないシャツのボタンをおもむろにはずし始めた。
イタリアにまたがられたドイツが我に帰り、あわててそれを止める。


「ちょっちょっと待て!!こ、こんなところで・・」
「これ!!見て!」


止めるドイツの手を振り払いシャツのボタン全てをはずし終わったイタリアは首もとを指さした。
指さされたその細い首筋には先日つけた消えかかったキスマークがついていた。それ以外に特に変わった様子は見られない。
しかしそのキスマークがイタリアが真夜中に家に来てドイツを押し倒すような理由になるとは思えない。

全く意味が判らないと言うようにイタリアの顔を見上げると嬉しそうにニコニコと笑っている。



「・・コレが・・どうした?」
「えーっ!ドイツ分かんないのぉ!?」


ぷーっと頬を膨らますイタリアにドイツがもう一度その赤い跡を見てこくんとうなずく。
どうみてもなんの変哲もないただのキスマークだ。


「か・た・ち!!」
「形、がどうかしたのか?」
「もぉー!!このキスマーク、ハートの形してるの!!ドイツの鈍感ー」



言われてみればその様な気もする。頭が割れていて確かに歪なハートのようだ。
しかしだからなんなのだ。それとこの状態がどう関連付くのか。

眉間に皺を寄せるドイツにイタリアがにっこり笑った。



「素敵でしょ?これが消えちゃう前にドイツに見せたかったんだ」
「まさか・・この為だけに、か?」
「うんっ!お風呂入ってたんだけどねーもうすぐ消えちゃいそうだったから走ってきたよ!」


誉めてくれと言わんばかりにうなずくイタリアに呆れてものが言えなくなった。
ゆっくりとその薄い赤色のハート形を指の先でなぞる。風呂に入っていたと言う体は確かにまだ濡れていて石鹸の良い香りを放っていた。

『珍しい形のキスマークを見せたい』。たかがそんなことのために濡れたままシャツを羽織り裸足で銃弾の中をくぐりぬけてきたにだろう。



「お前は本当に・・」
「・・勿体ないね、もう消えちゃいそう・・」


残念そうなイタリアの声につられてゆっくり顔を上げる。そしてそのままその跡に唇を寄せた。
ハート形の上にチュっと音をたてて吸い付く。
イタリアが息をのんだのが分かった。唇を離すと薄かったハートは真っ赤な丸型に変わっていた。



「そんなもの、何度も跡をつけているうちにまた出来るだろ」
「っ・・」


暗意にこれからも何度もつけてやると、ニヤリと笑って見上げると赤くなった跡に手を当ててイタリアが真っ赤になって俯いていた。
そして小さく呟いた。



「・・いいよ、ハートじゃなくても」
「何?」
「普通のでも俺、すっごく嬉しいから!!」


顔を上げてぎゅっと抱きつくイタリアについ、ここがリビングだと忘れて組み敷いた。


「・・そんなに嬉しいなら今すぐにたくさんつけてやる、体中にな」
「え、ちょっドイ・・」


次の日、夏だというのに長袖、長ズボンを着込んだイタリアと涙で目を腫らした兄さんがいた。


end
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