Um romance

□土の香り
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すぅ、と息を吸うと畑の匂いがした。どこか安心する、土と太陽の匂い。
久しぶりに嗅いだその匂い、なんの香りだったか。どこか懐かしい落ち着くこの匂い。
閉じていた瞼をゆっくりと開いた。


「ヴェ‥!?」


目の前にはスペイン兄ちゃんの健康的に日焼けした顔。男らしいその顔に近さについ息が詰まる。

寝ているらしい兄ちゃんは俺のベッドに頬杖をついて寝ていた。
何故こんなところにいるのか分からないが何やら幸せそうなその表情に胸が温かくなる。

仰向けに寝ていた体を兄ちゃんの方にごろりと向き直す。



(まじまじ兄ちゃんを見るのは久しぶりかも‥)



日焼けした肌にしっかりとした骨格、キリリとした眉は男らしくてつい目を奪われてしまう。
しかしそれに反し、だらし無くよだれを垂らす口はなんともしまらなくてスペイン兄ちゃんらしい。

男らしいけど、どこか抜けていて優しい。
小さい頃はこの人のような大人になるのが夢だったんだっけ。現実はこんなヘタレな大人になってしまったけど。



「にーいちゃーん、起ーきてー」


大して起こすも無く、小さい声で呼び掛ける。
顔にかかった少し癖のある髪を耳にかけた。



(本当にかっこいいなぁ)



ドキドキと早鐘をうつ音につい兄ちゃんに聞こえていないか心配になる。

(ちょっとぐらい‥いいよね)


かきあげた髪から覗くおでこに唇を近づける。
どんどん近づく兄ちゃんの顔。それとともに早くなる鼓動。

あと3ミリ、というところでずっと閉じていた兄ちゃんの瞼が開く。



「うひゃああぁ!!?」
「ああああ?!!!目ぇ開けてもうたあぁ!」



頭を抱える兄ちゃんから飛びのく。
あああ!と言って呻く兄ちゃんの様子からどうやら先程からずっと起きていたらしい。
全く気がつかなかった。
いつから起きていたんだろう?



「ああ!イタちゃんがあんまりに可愛いから我慢できひんかったああぁ!髪触ったりぃ!チューしてくれようとしたりぃ!可愛いすぎるやんっ!」
「ヴェ!いつから起きてたの!?」
「ん?最初からやで。お?イタちゃんどないしたん?」



恥ずかしくて恥ずかしくて布団を持ち上げ頭からすっぽりと被る。頬も耳も体中が周知で熱い。
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
最初からということは、顔を見つめていたことも、髪を耳にかけた事も、おでこにチューしようとした事も全部、見られていたということで。

布団がぱらりとめくられ、光が差し込む。



「イータちゃん」
「‥起きてたならいってくれればいいのにー、兄ちゃんの意地悪〜」



すまんなぁ、と笑う兄ちゃんに頬をぷくーっと膨らます。どうしようもなく恥ずかしくて指の先まで真っ赤だ。

ふふっと笑った兄ちゃんは前髪を書き上げ俺の前に額を突き出した。



「なぁ、続きしてくれへん?」
「‥しょうがないなぁ」


ちゅっと唇を付けた額は俺の頬と同じぐらい熱かった。
ぎゅーっと抱きしめられた兄ちゃんの腕の中は優しい、土の香がした。

end
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