Un roman
□定番といえば
1ページ/2ページ
『お前はしっかりした恰好の方が似合ってる』
ずっと昔からそう言っていた。それこそ何世紀も前からずっと。
だからこそ、小さい頃はそれなりに高い服を着させたりしてきた。
だけどまさか――
(スーツがこんなに似合うなんて・・っっ!)
目の前のアメリカは普段のラフな恰好とは打って変わり、見るからに上等そうな糊の利いたスーツをきっちりと着込んでいる。
髪もしっかりとセットされ、ネクタイもきちんとしめていて、いつものおちゃらけた様子はみじんも見られない。
表情こそ堅苦しい服を着ているせいかむすっとしているがアメリカのその姿はとても秀麗だ。
(普段からこういう服装をすりゃぁいいのに・・)
フォーマルな恰好を嫌うアメリカは基本仕事中でも軍服にフライトジャケットを羽織るというなんともラフな服装だ。
今日はなにやら上司と国の大事を決める会議があるらしい。そういうことでもない限り、彼はこういった恰好をしない。
現にイギリスも結婚してからアメリカのこのような恰好を見たのは初めてだ。
ばくばくと心臓の高鳴りがばれないようにポーカーフェイスを気取る。
「な、なかなか良いんじゃないか?」
「えーそうかい?なんか変な感じだよ・・やっぱりいつもの恰好で行くよ」
「い、いや!駄目だぞ!!こういう時ぐらいスーツで行け!な!?」
「でもなんかおかしくないかい?」
「そんなことないぞ!あ、それならいつもの服持ってて会議終わったら向こうで着替えたらいいじゃねぇか!!それがいい!そうしろ!」
スーツを脱ごうとするアメリカを必死で止める。
アメリカは少し不思議そうな顔をしてから渋々と言った感じにスーツを羽織直した。
心のの中でほっと息をついた。あまりの自分の必死さになんだか呆れてしまう。
「じゃあ行って来るよ」
「ああ、・・い、いってらっしゃい」
何度言っても言い慣れない言葉を少しはにかみながら呟く。
行って来るよ、と笑うアメリカにおうと返事をしてやる。
玄関を出ていく後ろ姿にアメリカのこの姿もコレで見納めかと思うとなんだか寂しく感じる。
すると突然アメリカがくるりと後ろを振り返った。
「ぅお!な、なんだ!?」
「ちょっと忘れ物した」
「へ?何を」
忘れたんだ?そう続くはずだった口をアメリカにふさがれる。
触れるだけの軽いキス。
ちゅっと音を立てて離れるアメリカに真っ赤になる。
「なにをいきなり・・」
「いってきますのチューだぞ!」
「は?!」
「なるべく今日は早く帰ってくるから!じゃあいってきます!」
だっと玄関から走り出すアメリカの耳が自分の顔ばりに赤いのは見なかったふりをしてやることにした。
end
NEXT→あとがき