少年陰陽師

□初詣
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正月とも呼べる壱月。

朝日が昇り除夜の鐘が鳴り止む。外出していた者は口々に新年の幕開けを祝う。

世界的に有名な日本の其の伝統行事は安倍一族も然り。

「あけましておめでとうございます」

昌浩は深々と頭を垂れた。晴明も開いていた扇をパチンと閉じて目礼する。

「うむ。おめでとう」

二人の挨拶は平成の世でするには少々違和感が拭えないものだった。過去の記憶がそうさせているのだろうか。

何千もの年月を生きてきた物の怪はそんな他愛も無い事をつらつらと考えながら目の前の二人を見遣る。

昌浩と晴明。二人は他の者とは違い前世の記憶を持ったまま現世に生まれ出てしまった。まぁ――そのおかげで紅蓮…十二神将達と再会出来た訳だが。

「――うわっ!」

深く考え事していたせいか急に身体が宙に浮かんだ事に物の怪は動転する。

背後に視線を遣れば案の定晴明との話を終えた昌浩が何時もの如く自分を持ち上げていた。些か昌浩の顔が怒っている様に見える。

「急に声上げないでよ。びっくりするじゃん」

「あ、嗚呼。すまん…」

物の怪は拍子抜けした返事をすると急いで昌浩の肩に移った。其の間に昌浩は一礼して晴明の部屋を退室し、そのまま玄関に向かう。何処かに出掛ける様だ。

「おい昌浩。何処に行くんだ?」

「あれ?もっくん、聞いてなかったの?」

物の怪はさらりと昌浩に向けていた視線を外す。別段、隠すこともないが彼の中に有る罪悪感みたいなものが物の怪をそうさせたのだ。

「…嗚呼。少し考え事をな」

「ふーん…」

昌浩は其れに気付かず先程晴明に言った様に物の怪にも目的地を告げる。

「此れから彰子と一緒に初詣に行こうと思って」

「彰子と?」

「うん」

物の怪は瞳をパチパチと何度も瞬かせた。

其れは――俺も一緒で良いものだろうか…

二人の関係は本人が気付いていないだけで既に周知の知る事実だ。彼等の間に物の怪が居て良い訳がない。

「昌浩」

「ん?」

昌浩が訝しげに視線を向ける其の先で物の怪は神妙な顔をする。

「其の、初詣とやらに俺も同行して良いのか?」

質問をした次の瞬間、物の怪は昌浩に対する認識を改めた。やはりこいつは超がつく程の鈍感なのだ、と。

「え、なんで?もっくんがいた方が彰子も喜ぶだろうし、もし何かが起きても安全でしょ?」

「………、すまん。俺の質問が悪かった様だ」

「は?」

呆ける昌浩を他所に物の怪は再度質問をする。超がつく程の鈍感でも解る質問を。

人は此れを「単刀直入」と言う。

「――御前は、彰子と二人っきりで初詣に行かないのか」

「は………っ!!!」

たっぷり三呼吸分数えた所で物の怪の問いを理解した昌浩は顔を真っ赤にさせた。

「なっ、なななななな何を急に…っ!!」

あまりの動揺で呂律が上手く回っていない。それ程昌浩にとって衝撃的だったという訳だ。

おそらく…物の怪に指摘されるまで考えもしなかったのだろう。

物の怪は物の怪で昌浩のそんな反応に驚いていた。

―――…其処まで慌てるか?

それと同時に恋愛に関しての昌浩の鈍さにはきっと誰も勝てないなと物の怪は思った。
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