おはなし。

□きらきら光る
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「おーいしー今日ヒマー?」

「商店街行きたいんだろ」

「当ったり〜。行こ?」

「ちゃんと練習やったらなー」

「むぅ。ほいほーい、っと。りょーかいでありますおーいし副ブチョー」





部活前の部室で後ろから飛び付いてきた英二と暗黙の約束をして、部活帰りにそのまま商店街の方に向かった。

さっき道端で配っていた広告用の明るい緑色のうちわを持った英二は、上機嫌でぴょこぴょこと歩いている。
目はこどもみたいにキラキラして、いろいろなところを見るからその度に髪が揺れる。
俺はその1歩後ろを、見失わない程度離れてしまわない程度にゆっくりと歩いてついていく。
時々人の流れにおされて立ち止まったりよろめいたりしてしまう英二を支えるのにちょうど良い位置なんだと、長い付き合いの中で学んだ。



「あ、金魚!」

「英二の家飼えないんだっけ?」

「危ない気がするんだよなー金魚。なんか食べられちゃいそうじゃん」

「犬とオウムに?」

「うん。だから見るだけ!」



まぁ魚はいっつも見てるしね〜、と続けて、また方向転換した。



「うぉ!ヨーヨー発見!」

「わ、あんまり引っ張るなって!」

「大石が遅いの!」



自分よりひとまわりくらい華奢な手に腕を引っ張られて、子ども連れで賑わう一画を歩き回った。





結局、自分の分の針はすぐにダメにしてしまった英二の隣にしゃがみこんで、英二がさっき失敗した赤地に黄色やオレンジのラインの入った賑やかな風船と、まだ針が生きていたので、少し遠くにあった水色に近い青に黄色と白の水玉の風船を釣ることとなった。

因みにその水風船はふたつとも、英二の中指にぶら下がっている。
さっきまでは「むー…。何かクヤシイじゃん!」なんて言いながら両手のヨーヨーを俺にぺしぺしとぶつけてきていたけど、今は真剣な表情で右手につけた赤い風船と左手の水色の風船を交互についている。
コツとリズムを掴んだらしく、最初に比べてテンポよく続くようだ。
左右合わせて30越えたなー、なんて、無意識に数をカウントしていたら、ポケットに入れてある携帯が震えた。

落っことしそうだと片手で軽く支えていたいちごあめをそのまま英二の口の奥まで落とさないように入れて電話に出ると、母親だった。
曰く、妹が七夕のお飾りを作りたいらしいからそろそろ帰れないか、ということらしい。
この手のお祭り事が好きな妹だから、相手をしてやりたいとも思うが今は同じくお祭り大好きな英二と一緒なんだと伝えると、当然のような声で「あら、英二くんは一緒に来ないの?」と言われた。
聞いてみるよ、と返して、電話口に手をあてて振り返る。



「英二、今日うち来るか?」

「んー?行くー、いいの?大石ん家七夕やる派?」

「妹が飾り付けやりたいんだってさ」

「行くー!」



片腕に英二をぶら下げたまま、電話の向こうに今から行くと言って、わたあめや小さなカステラの屋台をひやかしながらゆっくりと、俺の家へ向かって行った。





***





「ねぇね、お兄ちゃん」


飾り付けに精を出していたのは妹と英二で、ふたりできゃいきゃい言いながらカラフルな折り紙を切ったり貼ったりばらまいたりしていた。
幼稚園なんかでよく見る、折り紙の輪がたくさん連なった長い飾りや、切り込みを入れてちょうちんのようにした飾りを大量生産していて、作りすぎて最後はおもちゃになっていたみたいだ。
その後イベント好きな母さんの、普段より手の込んだ夕飯を食べて、英二は素直ににこにこ感想を言うから、母さんのご機嫌はさらに良くなっていた。
うちにいないタイプの英二は母さんのお気に入りなんだ。
来る度に世話をやいている。
初めて来たときに「大石って絶対お母さん似だよな!絶対そうだよな」って言われてしまった。

食べてまた妹と遊んで、あまり遅くなる前にと思っていたけど気がついたらもう結構な時間で、結局俺が家まで送って行った。


無事に送り届けて帰って部屋で宿題でもしようかと机に向かったところで、もう寝るらしい妹がいつもどおりお休みを言いに来た。



「<D1>って、ダブルスワン?」

「あぁ、そうだよ」

「ダブルスワンって、お兄ちゃんと菊ちゃんのことだよね?」

「まぁ、うちの学校ならそうだけど、なんで?」



いきなりの質問に疑問を感じて聞いてみる。
妹は英二になついていて、英二も自分より年が下の子を構うのが新鮮で面白いみたいだし、今日は久しぶりに遊べたから、大騒ぎしてる時に何か聞いたのかな。



「今日ね、七夕のお飾りで短冊書いたでしょー?」



書いていた。
そしてふたりのお手伝いに細々した仕事をしていた俺も、当たり前の流れで短冊を渡された。

夕方うちに来る前に、「うちさー、兄ちゃんも姉ちゃんももう七夕やんないからなーんもないんだよー!」なんて愚痴っていたし面白かったらしく、今大石家の笹の葉には英二の短冊も、折り紙の輪飾りや他の短冊と一緒にひらひら揺れている。



「そういえば、英二<ずーっとD1!>って書いてたっけ」



それで聞いてきたのかな、と少し納得しかけていると、でもね、と声がかかった。



「でもね、いっしょに書いてる時にね、何お願いするのー?って聞いたの。その時に菊ちゃん言ってたの違うんだよー」



不思議半分、けれど何となく、分かってしまったような気持ち半分で、続きを促す。



「その時は、何て言ってたの?」



もしも、そのお願い事が、俺に叶えられるものなら、






「お兄ちゃんと『ずーっといっしょ!』って言ってたよ!」






その役目は、お星さまじゃなくて俺のものかな。










(菊ちゃん、何お願いするのー?)
(ん〜。どうしよっかなぁ。やっぱ、大石とずっといっしょ!かな?)
(ずーっと?)
(うん、ずーっと)
(なかよしだねっ)
(そだね。お兄ちゃんには、ナイショ、ね?)

fin.
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本当は今日までに考えていたネタが3つ程あったので、ランダムで拍手更新しよう!と企んでいたんですが、間に合いませんで……!


英二の中では、<ずーっとD1>=<大石とずーっと一緒にいられる!>みたいな。
それにしても、妹ちゃんをかなり捏造してしまいました。

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