忘れ去られたサイヤ人

□塗り替えられた想い
2ページ/5ページ

それから数年が経ち、さすがにターブルももう赤ん坊ではなくなっていた。
兄弟は今、食事をとっていた。
そこにナッパが入ってきた。
「ベジータ様、次の地上げの惑星が決まりました」
ベジータは手を止めて、視線だけをナッパに向けた。
「今度の星は、それなりに手応えがあるらしいですぜ」
日に日に強くなるベジータは、並みのレベルの星では詰まらんと常々言っていた。この惑星なら、ベジータも満足するだろうとナッパは思っていた。
「その惑星までの移動時間は?」
「約二ヶ月っす」
「片道でか?」
「は、はい」
ベジータがギロリと目付きを鋭くし、ナッパは怯んだ。
「それでは移動だけで四ヶ月もかかってしまうだろうが!」
拳でテーブルを叩いた。
ターブルもさすがに兄に慣れたのか、このくらいのことではもう驚かない。微塵も動揺しないで食べ続けていた。
「他の星を探せ」
「け、けど…」
「探すんだ!」
「は、はぁ…」
ナッパは重い足取りで出ていった。
ナッパが扉を閉めるのを確認すると、ベジータはターブルを見た。
サイヤ人としては食の細いターブルは、もうデザートに入っていた。
甘いそれを一口頬張る度に、ターブルは幸せそうに微笑んでいた。
「…うまいか?」
「はい」
そのままの笑顔でベジータの方を向いた。
この弟を見ていると、やはり顔から力が抜けた。


「いったい何だってんだ? 前は強い星を探せって言っていたのによ」
不満げに呟きながら、ナッパは歩いていた。
すると、前方からリークも歩いて近付いてきた。
「なんだ? 似合わない難しい顔をして」
「似合わないは余計だ」
そう言いつつも、ナッパは成り行きで先ほどのことをリークに話してみた。
「あいつ、あんなにこの星から離れたくないのか?」
ベジータが見えるはずもないのに、ナッパは振り向いていた。
「いや…」
リークもその視線の先を見た。
「離れたくないのは、この星じゃなくて弟だ」
「へ?」
ナッパは首を戻して、リークを見た。
「自分のトレーニングの時もターブル様をモニタールームに置いたりして、極力側に置きたがっていたじゃないか」
「そういや、そうだな」
そしてターブルはモニター越しに、日々強くなる兄に輝いた視線を送っていた。
「自分の目の届かないところで、またターブル様の身に何かあってはたまるかと思っているらしい。ようは、オレを信用してないんだよ」
リークは自虐的に視線をそらした。
「そんなもんなのかな?」
「たぶんな」
ナッパは間の抜けた表情をしていた。
あんな弱っちい奴に執着するなんて、理解できなかった。
「しかし、四ヶ月の距離でも駄目か…」
リークはふと考え込んだ。
「どうした?」
「その距離内の星なんて、ほとんど制圧してある…。このままではベジータ王子は地上げに出なくなってしまうぞ」
「そんな…あの強さを相手にするのは、この星の技術ではもう追い付かないぞ。他の星に行って力をつけてもらわないと…」
「そうだな。まだまだ伸びるだろうから、ここでとどまるのも惜しい…」
リークは俯いて、深く考えた。
フリーザ様もベジータ王子の活躍は期待されているようだ。それなのにベジータ様が地上げをしなくなれば、いい顔をしなくなるだろう。
「……ナッパ、王のところへ行こう」
リークは顔を上げた。
「は? なんで?」
「とりあえず王に話してみよう。何かいい手があれば、その知恵をいただこう」
「あ、ああ」
二人は玉座に向かった。


二人の話を聞いた王も、顎を引いてリークと同じ表情をしていた。
「確かに。それは良くない傾向だな」
「はい…」
リークは王なら自分と同じことに気付くと解っていたが、口を開いた。
「このままではフリーザ様が…」
「私がなんでしょう?」
三人は声のした方に鋭く振り向いた。
そこには、尻尾をゆっくりと揺らしながら歩いてくるフリーザがいた。
「失礼と承知してましたが、話は聞かせてもらいました」
王とリークは気付かれないように歯を食い縛った。
できれば、彼の耳に届く前に自分達でなんとかしたかった。
「困りますねえ。せっかくいい仕事ができる力を持っているというのに。その仕事をしてくれないとは。こちらとしても、損となってしまいます」
淡々と話していた。
「わ、我々がなんとか説得しますので!」
リークは慌て言った。何となく、嫌な予感がした。
「あの王子がすんなりと人の言うことをきくとは思えませんね」
フリーザは提案というように、人差し指を立ててきた。
「手っ取り早く、原因の方を取り除いてしまった方がいいかもしれませんよ」
「…と言いますと?」
フリーザは温かみの無い笑みを浮かべた。
「私に考えがあります。のってくれますか?」
物腰柔らかな言い方であったが、王達がその話を聞かない訳にはいかなかった。
フリーザの言葉は全て、絶対的な命令なのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ