忘れ去られたサイヤ人

□甘い優しさ
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リークは気ままに惑星の建物の中を歩いていた。
王と他のエリート戦士達は、フリーザの宇宙船に行っていた。
反乱がついに動き出したのだ。
そのことをどこか他人事のように感じながら歩いていたリークは、廊下の赤い汚れに気付いた。
血痕だ。まだ新しい。
よく見ると、それは点々と続いていた。
気にかかり、リークは血痕を追った。

角を曲がったとき、壁に寄り掛かりながら歩く男を見付けた。
バーダック?
下級戦士でありながら高い戦闘力を身につけたその男を、リークも知ってはいた。
血を流しているバーダックは、そのまま酒場に入った。
中が騒がしくなり、リークもそこに近付いた。
開いていた扉の横に着いたとき、バーダックの声が聞こえた。
「フリーザがオレ達を…この惑星を消そうとしているんだ!」
リークは足を止めた。
そのまま廊下で、バーダックのことを笑っている声を聞いていた。
リークは冗談とは思わなかった。
王の反乱が失敗したのだろう。その報いを、サイヤ人は受けるのだ。
そのサイヤ人に自分も入っているのだろうが、リークは不思議と落ち着いていた。
バーダックの罵倒が響き、笑い声が消えた。
「てめぇら全員…。地獄へ落ちろ――!!」
そう言い放ったバーダックは、外のリークに気付かずに、またフラフラと歩きだした。
その背中に、リークは口に出さずに話しかけた。
バーダック、お前が言うまでもない。サイヤ人は皆、地獄に行くさ。ターブル様以外のサイヤ人は皆…な。

バーダックはもうどこかに行ってしまった。
リークは何かを感じていた。
もうターブルの居た頃の惑星とは違う。
惑星を包む何かが、そして何よりリーク自身の何かが変わっていた。
ふと、空が怪しく光っているのに気付いた。
近くのバルコニーに出てみると、上空に巨大なエネルギー弾が迫っていた。
フリーザだ。
リークは直感した。
そして、この星も自分も終わることを悟った。
地面が揺れ、体が吹き飛ばされた。
最後にリークは思った。
今この星にターブルが居なくてよかった。
そして、もうひとつ。
意地なんかはらず、スカウターの通信を試してみればよかった。
口の中に広がった甘さの中、わずかに苦味を感じた気がした。


最後の光とともに、惑星ベジータの全てが消え去った。






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