忘れ去られたサイヤ人

□不器用な慈しみ
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ベジータ王子は珍しく王の部屋に呼ばれた。
そこで二人だけになった時、王の口からターブルを辺境の星に送ることを聞いた。
「なぜだ!?」
王子は目を見開いて、王に掴みかかった。
「なぜターブルを一人で行かせる!?そんなことをして、あいつが無事ですむと思っているのか!?」
「おちつけ…」
王の声は低かったが、王子は構わず叫んだ。
「あいつの性格も戦闘力も戦いにはまだ不向きだ!それでも送るというのか!?」
「話を聞け…」
「親父はターブルが死んでもいいと言うのか!?」
「聞けっっ!!!」
ビリビリと肌に痺れが走る一声だった。
ベジータ王子は思わず怒りを吸いとられた。
戦闘力ではすでに王子の方が上だったが、ベジータ王は子どもにはまだ出せない気迫を発していた。
王子が口を閉ざしても、王はしばらく黙っていた。
「……ターブルを送るのは侵略目的ではない」
口を開いた王の瞼は、やけに重そうだった。
「表向きは奴を追いやることにしている。ターブルには異星文化の勉強とでも伝える」
「…どういうことだ?」
それでもターブルを追いやる理由が解らなかった。
王子は眉を寄せた。いくらターブルが戦闘に向いていないとはいえ、父も自分と同じくらいターブルのことを想っているのは知っていた。
ベジータ王はやっと目をしかと開き、息子と向き合った。
「近いうちに、オレはフリーザのところに攻め込む」
この言葉に王子は再び目を見開いた。
「バカか!?奴の力はオレ以上だ! 敵うはずがない!!」
「それでもだ」
「死にたいのか!?」
王は目をそらさずに黙っているだけだったが、王子はそれが肯定の返事と覚った。
「…このまま奴に頭を下げて生きていくことは出来ない」
「………」
それは、すでに誇り高いベジータ王子にも理解出来る考えではあった。
「そんな生き方をするくらいなら、戦って死ぬ」
「……バカか」
「ああ、そうかもしれん…」
王の返事は静かなものだった。
王とて解ってはいた。なんとも身勝手で、我が儘な決意だ。この幼い我が子でさえ、その愚かさが解っているというのに。
「その後、フリーザがサイヤ人に何をするかは解らん。反逆を静かに許すような奴ではない。ターブルを送るのは、奴等には機密にしておく。それで難を逃れればよいが……。お前は大丈夫だろう。奴もお前のことは目にかけている」
王は淡々と言い続けた。
「………お前が死ねば、ターブルは泣くぞ」
王を睨み付けた。
「ああ、そうだな」
そのことにも目を背けて決めた。その辺り、本当に自分の方が子どもじみていると感じる。
自分が生きて、再び息子達と会える希望は無い。しかし、それを最後まで糧にしたかった。
「お前は、泣いてくれないのか?」
ベジータ王子は黙って王を見ていた。
しかしその顔は、なんとも痛々しかった。
止めることなんて出来なかった。同じサイヤ人として。
ベジータ王子は父親の胸に額を当てた。
彼がそうした行動をとったのは、これが最初で最後だった――――


後日、ターブルは辺境の星へ送られた。
本人は単純に異文化交流としか思っていないようで、しばし会えない寂しさだけを悲しんで去っていった。


そして、ベジータ王子がある星を攻めていた日――王子はこの日に王が反乱を起こすことを知っていた――スカウターから惑星ベジータが消滅したことを聞いた。
事前に全てを知り、あらゆることを想定していたベジータは、その報告を聞いても眉ひとつ動かさずにいれた。
ターブルを追いやっていたのは、正解だったようだ。
親父、お前の判断はひとつだけは正しかったようだ……。
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