忘れ去られたサイヤ人

□忘れ去られたサイヤ人 2
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惑星ベジータが消されてから、20年以上が経った。
ベジータ、ナッパ、ラディッツはフリーザの下で引き続き地上げ行為を行っていた。
その日も、三人で一つの星を攻め込んでいた。
「こりゃ、めんどくさい星だぜ」
ナッパが愚痴た。
この星の住民の抵抗が思った以上に激しく人口も多かったため、三人は少々てこずっていた。
「せめて、月があったらな」
ラディッツは空を見上げた。
「そしたら、お前でも時間をかければ絶滅出来たかもな」
ナッパの皮肉混じりの言葉にラディッツは舌打ちをした。
「どうする、ベジータ。予定通りに終わらせるなら、応援呼んだ方がいいぜ」
ナッパは視線をベジータに向けた。
「冗談じゃない」
ベジータは眉間に皺を寄せた。
「サイヤ人でもない奴の手など借りるか」
ベジータのサイヤ人に対しての誇りとこだわりは強かった。そのサイヤ人三人がてこずっているというのは知られたくなかった。
「サイヤ人といえば…」
ラディッツが何かを思い出したようだった。
「確か、俺の弟が惑星ベジータが消滅する直前に、地球とかいう星に送り込まれたらしい」
「それがどうした?」
「運が良ければ、まだ生きているかもしれない。そいつを加えるってのことはどうだ?」
「ほう、俺達以外にも生き残った奴がいるかもしれないのか」
「…面白い」
ベジータの言葉に二人は振り向いた。
「ラディッツ、その弟とやらを連れてこい」
「あ、ああ」
ベジータのしゃべり方が命令口調になったのを聞き取り、ラディッツは早速アタックボールの方へと飛んでいった。
ナッパはそんなラディッツの軌道を目で追った。
「けどよ、あいつの弟じゃたかが知れているかもしれないぜ」
口の端を上げた。
「いや、もしかしたらそいつはバーダックのようになっているかもしれないぞ」
ベジータはラディッツの父親の名を出した。
バーダック、下級戦士として産まれたものの、その後目まぐるしく成長したサイヤ人の中でも有名な男だった。
「もしそうならず、ラディッツの奴より劣っていたら、その場で処分すればいい話だ」
ベジータが冷酷な笑みを浮かべた。
「それにしても、辺境に送られた弟か…。へへっ、誰かを思い出させるじゃないか」
ナッパが意味ありげにベジータを見た。
「ああ…そう言えば居たな、そんな役立たずがもうひとり」
ベジータもニヤリと薄笑いを浮かべた。
「あいつ、まだ生きてるんかね?」
「あいつの悪運の強さは半端ない。つまらんことではくたばらないかもしれんぞ」
ベジータはスカウターに手を伸ばし、通信を開いた。
「おいターブル。ターブル!」
スカウターからは何の反応も返ってこなかった。
「…やっぱり、死んだか?」
ベジータの反応を見て、ナッパが口を開いた。
「いや、スカウターを外しているだけだろう」
ベジータは手を下げた。
「光栄にも、生存を確かめに行ってやるか」
ベジータは体の向きを変えた。
「ターブルも加えるのか?」
「ここからならラディッツが地球とやらに着くまでには往復は出来る。あいつのことだから、期待は出来んがな」
「感動の兄弟の再会ってとこか」
ナッパは片眉を上げた。
「再会?馬鹿言うな。墓参りになるかもしれんぞ」



ターブルのいる惑星で、食糧調達のために山脈にいた二人の住人は、空から落ちてくる丸い宇宙船を目撃していた。
「あれ、昔ターブルが乗ってきた宇宙船に似てないか?」
「そう言えば、ああいうのだったね」
二人はそれが着陸した地点に向かった。


ポットから出たベジータは、クレーターを覗き込んでいる二人に気付いた。
「ターブルと同じ格好だ」
「サイヤ人かな?」
その会話を聞き、ベジータは飛んで二人の近くに下りた。
「ターブルはどこにいる?」
身長の低い二人は、ベジータを見上げた。
「ターブルに似てる。やっぱり同じサイヤ人ですね」
「もしかして、お兄さんですか?ターブルから時々話を聞き…っ!!?」
話していた住人はいきなりベジータに口を抑えられ、そのまま持ち上げられた。
突然のことに、二人は目を丸くしていた。
「余計なおしゃべりはいい。ターブルはどこかと聞いているんだ」
ベジータの指が住人の顔に食い込んでいった。
「や、やめてください!放してください!」
もう一人が必死にベジータの膝にしがみついた。
しかしベジータはその彼も一蹴りで吹っ飛ばした。
「奴の居場所を言え」
蹴り飛ばされ、痛みに呻きながら森の向こうを指差した。
「この先の、街の中心部に…いるはずです」
それを聞くと、ベジータは掴み上げていたもう一人を木に投げつけた。
彼は幹に背中を打ち付けた。
「一応役には立ったから、殺さないでおいてやる。感謝するんだな」
ベジータは飛び上がると、指差された方角に向かった。
「あれが…サイヤ人」
残された二人は、まだ立てずにいた。



街の中、地面に空いた深い穴の回りに人だかりが出来ていた。
その穴の中から、土に汚れたターブルが飛んで出てきた。
着地すると、人々はターブルに集まった。
「水脈にはたどり着いたか?」
「はい」
新しい水脈が見つかり、ターブルは井戸掘りをしていたのだ。
ターブルのサイヤ人としての体力等は、この星で重宝されていた。
ターブルは水の入った小瓶を一人に手渡した。
「これが地下水です」
「よし。早速、水道として使えるか、水質調査をしてみよう」
ターブルは顔の泥を拭った。
「おい、あれなんだ?」
誰かがそう言い、空を指差した。
ターブルもそちらを見上げた。
すぐに誰かが飛んで来ているのはわかった。
しかし、おかしい。この星にあれほど速く飛べるものはいないはず…。
誰なのだろうと見ていると、ターブルの鼓動が激しくなった。
まさか…!?
有り得ないと葛藤している間に、目の前に兄が下りてきた。
腕を組んで立つ姿は、間違いなく兄だった。
「なんだ、そのみっともない姿は」
ベジータはターブルを見るなり冷笑した。
「兄さん…なんで…」
ターブルは頭がついていかなかった。
もう会えないと思っていた兄が目の前に居ることに、喜びと混乱が入り雑じった。
これは、夢なのだろうか…?
ベジータはターブルの質問に答えることなく、スカウターを軌道させターブルをロックすると、戦闘力を計った。
「ちっ。少しは成長したかと思ったが、それは見かけだけか」
ベジータはその数値を見て、顔をしかめた。
「兄さん…どうして…」
ターブルはまだ目を丸くしていた。
「もし貴様が生きていたら、使ってやろうと思っていたが。これじゃあ、足手まとい以下だ」
「兄さん!」
ターブルは喜びに体が痺れ始め、ベジータが何を言っているのかあまり理解していなかった。
ベジータはターブルに掌を向けた。
「貴様のようなサイヤ人、生かしておく理由もない」
ベジータの手が気を集めて光出すのを見て、ターブルは直感した。
平和に過ごしたとはいえ、サイヤ人としての格闘センスが働いたのだろう。
ベジータは、自分を殺そうとしている!
しかしこのまま攻撃を受けたら、回りに集まっている人達も被害にあう。
ターブルはそれをさけるため、上空に飛び上がった。
「ほう…」
それを見ていたベジータは、手を下ろすと自分もターブルと同じ高さまで飛んだ。
「ここの住人を庇ったというのか?」
「……はい」
幼い頃からすでに威圧感のあるベジータだったが、今はあの頃以上の圧迫感があった。
ターブルはそれに押し潰されそうになりながらも、ベジータから視線を離さなかった。
「その態度を見ると、自分が殺される覚悟は出来ているらしいな」
「兄さんの言う通りだと思いますから。ぼくみたいなサイヤ人が生きていても、何の意味もない。……兄さんには、ぼくを殺す権利があります」
正直、何で自分のようなサイヤ人が今生き残っているのか、我ながら不思議に思うことすらあった。
それが今、兄に殺されるためだったのかと思うと、納得することが出来た。
「フンッ」
再びベジータの手が上がり始めるのを見て、ターブルは体に力を入れた。
しかしベジータは腕を組んだだけだった。
「そこまで覚悟の出来ている奴をただ殺してもつまらん」
「?」
ターブルはゆっくり呼吸しながら兄を見た。
「今ここで貴様の人生を終わらせてやるよりは、ここであのおもちゃみたいな奴等と仲良くくたばっていく方が、お前にはお似合いだ」
「兄さん…?」
「確か記憶が正しければ、昔にも似たようなことを言ったはずだ。その通りにしてやる」
確かにベジータはターブルが送り出される前夜に『貴様にお似合いの惨めな星で、のたれ死んでいればいい』と言っていた。
「とんだ無駄足だったぜ」
呆然としているターブルの放っておき、ベジータは来た方向に戻っていった。
「ま、待って兄さん!!」
ターブルはそれを追った。
しかしベジータのスピードに敵うわけがなかった。
全力で飛んでもターブルが追い付く前に、ベジータはアタックボールに乗り込み上空に消え去っていた。
ポットの軌道が残る空を、ターブルはずっと見ていた。



自分の家に戻って座っていたターブルに客が来た。
「ターブル」
グレだった。
グレはこの星の女の子だ。とても優しい性格で、よくターブルを気にかけていた。
「森に行っていた二人の怪我は、命には別状はないみたいよ」
「そう。ありがとう」
再び黙り込むターブルの横に、グレは近付いた。
ターブルもそれに気付き、彼女に目をやった。
「…あれがサイヤ人の本来の性格だよ。むしろ、殺されなかったのが強運だったくらいさ」
誇り高きサイヤ人。生物を絶滅させることが仕事のため、ターブルのように命を奪うことに戸惑いを感じることはない。
「そうなの…」
「皆のぼくを見る目も変わるよね、きっと」
「そんなことないわ」
グレはターブルの膝に手を置いた。
「それがサイヤ人というなら、貴方が居づらかったのも無理ないわよ。ここに来て、良かったのよ」
「…ありがとう」
グレの言葉に、ターブルは肩を軽くしてもらった。
「………今日、自分がどれだけ成長していないか、思い知らされたよ」
沈黙が長く流れる前に、気付けばターブルは口を開いていた。
「あの時、兄さんを追いかけたって相手にしてくれるはずなんてなかったのに。…昔だって、兄さんはぼくを構うことなんてなかったのに。それでもぼくは兄さんの後ろに居たいらしい。一秒でも長く」
いつでも、追い付くはずのないベジータの背中を追いかけていた。
「今日だって兄さんに殺されかけたっていうのに、それ以上に会えたことが嬉しくて仕方がないんだ」
もう二度と会うことのないと思っていた最愛の兄。幼さが消え、さらに王族の風格を身にまとったベジータを見て、さらに憧れを強くしただけだった。
「本当に…バカだよ。ぼくは…」
ターブルは体を曲げ、額を手に当てた。
グレはそんなターブルを静かに見ていた。
「ターブル」
やがて彼が少し落ち着いたのを見計らって口を開いた。
「強い人に憧れるのは、当然のこと。ましてあんな強い人が身内にいれば、強く憧れるのも無理ないわよ」
ターブルは少し濡れた目でグレを見た。
椅子に座った自分よりも小さな彼女。優しい彼女は、ベジータのこともターブルのことも一切咎めはしなかった。
それが何よりもターブルを温かくしてくれた。
「ありがとう、グレ」
わずかに微笑んで見せると、グレは柔らかい微笑みを返してくれた。
ターブルは安らぐことが出来た。

兄さん、理由はどうあれ、貴方にまた会えて良かったです―――。




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