忘れ去られたサイヤ人

□不器用な慈しみ
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惑星ベジータが夜の闇に包まれた中、ベジータ王は王宮を大股で歩いていた。
やっと本日の仕事が片付いた。いや、最後は半強制的に他の者に押し付けて終わらせてきたと言ってもいい。
それでも、この時間ではもう寝ているかもしれないな。
窓から覗く星空を仰いだ。


とある一室の扉を、王は音もなく開けた。
しかしベッドで寝ていた二つの影のうち、ひとつは侵入者に敏感に反応し、素早く体を起こした。
鋭い眼を王に向けていたが、相手が誰か解ると警戒を解いた。
「なんだ、お前か…」
実父であり王である彼にこう口をきくのは、すでに最強の名を称号された第一王子だ。
「城内でそんなに警戒することもないだろうが」
ベジータ王はベッドに近付いた。
ベジータ王子は顔をそらした。
まだ御歳五歳だというのに、この王子には王族に相応しい高貴さと、戦闘民族に相応しい血の気の多さが備わっていた。その姿はまさに理想のサイヤ人そのものだった。
その横の一回り小さな第二王子はまだすよすよと眠っていた。
こちらは兄とは対照的な子どもだった。
もともとこの部屋は、このターブルの部屋だ。王子という贅沢な身分のため、二人には各々個室は用意されている。しかしその部屋は高身分ゆえに広さも半端ない。幼子が一人でいたらもの寂しさも募る。
だからか、この二人がお互いの部屋に行き来来ているのは、今に始まったことではない。
ターブルの枕元には開いたままの本があった。それがそのまま眠ってしまったことを物語っていた。
王はベッドに腰掛けた。
大人でも三人は寝れるようなベッドだ。子ども二人がいても、まだまだスペースは有り余っていた。
王が座ったことでベッドが揺れ、ターブルの瞼が震えた。
「ん…」
顔を擦ると、ゆっくり目を開けた。
その目がぼんやりとではあるが父王を捕らえると、むくりと体を起こした。
「ちちうえ」
にこりと柔らかい顔を微笑ませた。
起き上がると、小さな体を倒しかけるようにして王に抱き付いた。
王はターブルを支えると、自分と向き合わせて膝に座らせた。
「おしごと、終わったの?」
「ああ」
ターブルは手を伸ばすと王の髭に触れた。
少し痛そうな素振りも見せたが、それが楽しいようだ。
「ちちうえ…」
まだ眠いのか、王の広い胸に寄りかかった。
ターブルが自分を呼ぶ時のの柔らかい声を、ベジータ王は好いていた。
それは「にいさん」と呼ばれているベジータ王子も同じだった。
ターブルの穏やかな気質はサイヤ人としては異例で、爪弾きされても当然のような存在だった。
しかし王と兄王子も表面上にはなかなか表さなかったが、自分を真っ直ぐ慕ってくれるターブルを大切に思っていた。
ベジータ王子はターブルを撫でている王をじっと見ていた。
「何しに来たんだ、親父」
王は自分を鋭く見上げてくる息子を見た。
「親が子に会いに来るのに、理由が必要なのか?」
口の端を上げて見せた。
「いつも何かと理由を作ってくるのは、そっちだろうが」
王は、ベジータ王子の見透かすような視線を黙って受け止めていた。
その後、静かにその視線をターブルの方に移した。
ターブルの瞼は閉じかけていた。
王はターブルをベッドに寝かせた。
「…いくの?」
まだ半分だけ開けていた目を寂しそうに潤ませながら、ターブルは父を見た。
「ああ…」
王はベジータ王子に目を向けた。お前はどうする?という視線だった。
「…オレはここにいる」
そう言うと、ターブルは安心したように微笑んだ。
そしてベジータの方に身を寄せると目を閉じた。
ベジータ王は長男の問い詰めるような視線を避けるように部屋を出ていった。
残された暗い部屋の中、ベジータ王子はまだ目を開いていた。
隣からはすでに小さな寝息が聞こえてきた。
ベジータは、王の眼にいつもとは違う何かが潜んでいたのに気付いた。
しかし、その原因までは見抜くことは出来なかった。
これ以上考えても答えは見付からないと解ると、ベジータ王子も目を閉じた。


その時の王の瞳に秘められたものを、ベジータ王子が知るのにそう時間はかからなかった。
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