忘れ去られたサイヤ人

□忘れ去られたサイヤ人 3
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ベジータがターブルの星に来たときから、10年以上の歳月が過ぎていた。


ターブルの目の前には、二つのアタックボールがあった。
ひとつはターブル自身がこの星に来たときに乗ってきたもの。もうひとつは、それを元に造られた、新しい宇宙船だ。
「……これで、完成のはずです。近いうちに試乗してみましょう」
点検を終えたターブルは立ち上がった。
「私が乗ってもいい?」
グレが話しかけてきた。
「…いいですか?」
ターブルは宇宙船をともに作った他のメンバーを振り向いた。
メンバーの彼らは、笑いながら口々に承諾した。
「それじゃあ、行こうかグレ。ぼくがもうひとつのに乗るから」
二人は微笑みあった。彼らは今は夫婦になっていた。

ターブルは窓のガラスがカタカナと音をたてたのに気付いた。
「今…揺れなかった?」
「え?地震かしら?」
グレは気付かなかったようだ。
廊下から足音が近付いてきたと思ったら、扉が開いた。
「ターブル!今、宇宙船が二機、丘の方に着地してきた」
走ってきた者が、入るなりそう口を開いた。
「え!?」
ターブルは体ごとそちらに振り向いた。
「これと同じ型?」
ターブルは二つの宇宙船を指差した。
「遠目だったから、断言は出来ないけど。たぶん」
ターブルの血管の中がざわついた。
「……お義兄さん?」
グレがターブルを見上げてきた。
「違うとは思うけど。二機って言ってたし……。ナッパさんかな?」
ターブルは自分に、あまり期待しすぎないように言い聞かせた。
「スカウターとってくる。なにか連絡入ってるかも」
ターブルは自分の部屋に走っていった。

ベジータから通信を拒まれたとき以来、引き出しの奥にしまいっぱなしだった、ターブルのスカウター。久しぶりすぎるそれを、ターブルが耳に着けた瞬間だった。
ドオォォンッ…!!!
光と轟音と地響きが襲ってきた。
「なっ…!?」
体制を立て直して、窓に向かうと、街の一角が残骸と化し、煙がたちこめていた。
目を疑っていると、スカウターが警戒音を出した。見てみると、高い戦闘力を持つ者が二人いると表示された。
その間も、破壊音が響いた。
ターブルは窓から飛び出した。


「たいした星じゃねえな」
「スッキリさせたら、他のところ行くか」
青と赤の肌を持つ、アボとカド。二機の宇宙船に乗って来たのは、この二人だった。
「そうするか」
アボが手にためた気弾を、街の中心に向かって放った。
しかし、横から別の気弾が飛び込んで、アボの大きな気弾は軌道をずらされた。
「!?」
アボとカドは表情を変えると、気弾の飛んできた方向を見た。
その空には、右手首に左手を添えて前に出していたターブルがいた。
顔からは恐れが出ていたが、決して弱気な表情ではなかった。
「戦闘服?」
「見ろ、あいつの尻尾」
カドがターブルの尻尾に気が付いた。
「サイヤ人ってわけか。まだ生き残りがいたのか」
ターブルの方も、二人の戦闘服姿を見て、フリーザの一味だとすぐに分かった。
ついに、この星まで征服の手が……!
「この星の環境は、見た通り良くない。支配しても何の意味もないはずです!」
二人に聞こえるよう、声を張り上げた。
「今すぐ戻って、フリーザ様にそう伝えてください!!」
こう言えば、この星への興味が薄れると考えていた。
しかし、アボとカドはニヤニヤと口元を歪めるだけだった。
「フリーザか」
「懐かしい名を出したな」
「…!?」
ターブルは眉を寄せた。
今、奴らは上司であるはずのフリーザを呼び捨てにした…?
「お前、情報が遅れてるぞ」
「フリーザはもういない。コルド大王もな」
「なんだって!?」
攻撃も受けていないのに、ターブルは頭に衝撃を受けた。
サイヤ人をも征服し、巨大な力を誇っていたフリーザ親子が、もうこの宇宙に居ないなんて、にわかには信じられなかった。
「オレ達がせっかく新しい星を攻め落として、報告しに戻ろうとしたら、二人とももうどっかの誰かにぶっ殺されてたんだよ」
「けど…それならなおのこと、この星を壊す意味はないはずです!!」
その話を完全に信じたわけではなかったが、とにかくこの二人をこの星から追い出すのが先決だと考えた。
「フリーザが居ないからこそ、今度はオレ達がこの宇宙を支配する!」
アボが不適な笑みを浮かべた。
「元々フリーザはサイヤ人を絶滅させようとしていたな。そこだけは引き継いでやるか」
ターブルを見ながらそう言うな否や、カドはターブルに向かって飛んできた。
「!?」
反射的に上げた腕で、最初の攻撃を受け止めることは出来た。しかし、強烈な一撃に骨まで痺れた。
「くっ…」
間を置かず、カドはターブルに蹴りを食らわそうと足を振った。
なんとか直撃される前に、もう片方の手から気弾を放った。
放たれた光の中、カドが吹っ飛んだ手応えは感じた。
一呼吸とろうとした直後、後ろから体を固定された。
「!!」
「もう一人居ることを忘れるな」
アボがターブルより数段上の力で、体を締め付けてきた。
逃れることが出来ずにいるうちに、正面からカドが突っ込み、そのままターブルの腹部に拳を埋めた。
「…かはっ…!」
プロテクターごと食い込んできた攻撃に、ターブルは内臓ごと吐き出すかと思った。
衝撃に力を持っていかれたターブルを、アボはそのまま地面に落とした。
岩肌に体を叩きつけられ、痛みに呻く間も無く、頭を足蹴にされた。
「ぐ…っ」
「情けない姿だな」
上からカドの声が降ってきた。
「何が誇り高き戦闘民族だ」
足に力が加わり、ターブルの顔はさらに地面に食い込んだ。
また、ぼくはサイヤ人の名を汚してしまったのか……。
ターブルはついに自分の命運がつきたのだと思った。
この星の皆…ごめんなさい。
「フリーザの下にいた頃、ベジータの奴も、オレ達には敵わなかったしな」
意識すら手放そうとしていたターブルは、兄の名を耳にし目を開けた。
「戦闘民族とか言いながら、どいつもこいつもしょせんクズな猿野郎じゃないか」
この言葉を聞いた途端、ターブルは心臓が跳ね上がり、血液が煮えたぎった。
自分のことはどんなに蔑まれてもいい。実際、自分でも下等なサイヤ人ということは自負している。
しかし、ベジータは違う。
兄はこんな自分とは比較出来ないくらい高貴な人物だ。
自分の、唯一と言ってもいい誇りである兄。そのベジータを侮辱され、ターブルの視界が変わった。
「………すな」
「あ?」
「キサマらごときが、兄さんを見下すなあぁ―――!!!」
ターブルの体から発せられた嵐のような衝撃波は、油断していたアボとカドを岩山に吹き飛ばした。
そのまま岩山に亀裂が広がり、二人の体は瓦礫に埋められた。
ターブルは立ち上がった。
スカウターを見ても、二人がまだ生きていることは分かった。
発作的に爆発した自分の力に驚く間も無く、ターブルは街に全速力で戻った。


街に着いたターブルは、呼び止める仲間の声に答えず、真っ直ぐ研究所に向かった。
「ターブル、一体何があったの!?」
アタックボールを置いてある部屋に戻ると、グレが彼に駆け寄ってきた。
彼女の姿を見て一瞬足を止めかけたが、ターブルは自分に鞭打って真っ直ぐ宇宙船に向かった。
ハッチを開けて、装置をいじりながら口を開いた。
「奴らはきっとぼくを追いかけてくる。ぼくは宇宙で奴らを引き付けてるから、皆は二人が飛び立つまで隠れててください!」
「ターブル?」
「下がってて、天井を突き破る!!」
近寄ろうとするグレに叫ぶと、ハッチを閉め、間入れずに発射させた。
大気圏を抜けるまで、ターブルに衝撃が襲った。
窓の外が暗くなってから、ターブルはやっと深く座り直した。
そして、自虐的に微笑んだ。
もうひとつの故郷の星も、去ることになるなんて……。
息を吐いて目を瞑るターブルの耳に、宇宙船の通信機からの雑音が入ってきた。
『………ターブル、聞こえる?』
「グレ!?」
機械を通じてき聞こえてきた声は、間違えようがない自分の妻だった。
『良かった。通じるのね』
「グレ、どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ!何で一人で片付けようとしてるのよ!!』
普段穏やかな彼女の、激しい口調にターブルは面食らった。
『あなたに続いてもうひとつの機体で発射してきたわ。何処に行くの?教えて、正式に入力し直すから』
「続いて…って。駄目だ!君は戻って!!」
『嫌よ!………あなた、死ぬ気でしょう?』
グレの発言に、ターブルは口を閉じた。
『……図星ね』
無言のターブルに、グレは念を押した。
その通りだった。
ターブルはあの二人を星から離れさせた後なら、殺されてもいいと思っていた。
あの平和な星の皆だけでも守りたかったのだ。
「…だからこそ、君は戻って」
何よりも救いたかった彼女に、ターブルは言った。
『バカ言わないで!!』
ターブルは機械を通じての怒声に頭を眩ませた。
「グレ…?」
『それで英雄気取り?ふざけないで!ターブルが居なくなって、どこが平和だって言うのよ!?』
ここで暫しの間が空いた。
『…種族を越えて、あなたと結婚した決断…。甘く見ないで』
再び聞こえたグレの声は、震えていた。
『私だって、あなたと離れたくないの』
「…………」
暗く音のない宇宙空間。本当の沈黙が流れた。
ターブルは組んだ手の上においていた顔を上げた。
「………適当な惑星に一度着地する。なんとか道を探そう」
ターブルの方から口を開いた。
グレはすぐに彼の言うことを芯まで理解した。
『解ったわ』
声越しに、彼女の笑みを感じ取った。
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