忘れ去られたサイヤ人

□忘れ去られたサイヤ人 2
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ターブルの乗ったアタックボールが目的地に着陸した。
街の外れの荒野に着陸したため、近くの住人が徐々に集まってきた。
入り口が開きターブルは外に出ると、周りを囲むこの星の住人達を見回した。
外見だけを見ても、自分と明らかに違いすぎる種族だった。
とうとう異星に来たのだということを決定的に叩きつけられ、ターブルは涙を溜めた。
涙なんてポットの中で枯れるくらい出しきったと思っていたのに。
こんなに泣いてたら、また兄さんにバカにされる。いや、兄さんとはもう………。
「…っ……ふわあぁぁ――っ」
受け入れたと思っていたのに、また泣けてしまった。
周りの住人は、いきなり飛んできた宇宙船の中から出てきた子どもが泣き出し、困惑していた。
しばし双方そのままでいると、やがて一人がクレーターの中に下りてきて、ターブルに近付いた。
泣き叫んでいたターブルは、この星の者が近付いてきたことすら気付かないでいた。
優しい手つきで頭を撫でられてから、初めて近くの異星人に気付いた。
子どもではなさそうだが、背丈はターブルとさほど変わらない。
優しい黒い眼で、ターブルを見ていた。
「大丈夫かい?」
その異星人はターブルの肩を掴むと、抱きよせた。
「………」
優しく背中を撫でる手付きに、ターブルは激しくカルチャーショックを受けた。
優しく温かい情というものを持たないサイヤ人の中で過ごしてきたターブルは、こんな風に接してもらったことは今まで一度もなかった。
ターブルはその異星人の体に顔を埋めた。
ここなら、大丈夫…。
そう思えるようになっていた。


ターブルの送られた星はリークの言っていた通り、街から離れると生物が住める環境はなかった。
しかし、街の中には進んだ文明も存在し、人々は互いに支えあって生きていた。
ここの人間は、サイヤ人という戦闘民族の存在すら知らなかったようで、何の躊躇いもなく不憫なターブルを仲間に引き入れてくれた。
ターブルはある家に、養子のような形で落ち着くことになった。



自分にあてられた部屋の中、ターブルは左耳に付けたスカウターをいじっていた。
迷惑かもしれないと思いながら、故郷のことが気になりリークに通信してみようとしたのだが、何の反応も返ってこなかった。
壊した心当たりもないため不思議に思い、適当に近くのフリーザの部下に通信出来るか確かめてみた。
少しの雑音の後、
『……お前、聞いたか?』
『何をだ?』
知らない二人の会話が耳に入ってきた。
スカウターは壊れてはいない、それならどうしてリークには繋がらなかったのだろうと首を捻っていると、衝撃的な言葉が耳に入ってきた。
『惑星ベジータが消滅したこと』
「え!?」
思わず声をあげてしまい、慌て口に手を当てた。
『ん?何か聞こえなかったか?』
『いや…。それより何だよ、あれは巨大隕石が衝突したって話だろ?』
ターブルは一人で眼を見開いた。
惑星ベジータが無くなった…?
ターブルは体が地に堕ちた気分になった。
『それがよ、違うらしいぜ。噂によれば、フリーザ様が破壊したらしい』
今度は口をおさえている必要もなかった。今度の驚きは声すら出せなかった。
フリーザ様が!?
『フリーザ様が?なんでまた?』
『これも噂だが、どうもベジータ王が反乱を起こしたらしい』
父さん…。
確かに父王はフリーザに従っているとき、いつも快くない表情をしていたが。
『それが逆鱗に触れたわけか?だとしたら、サイヤ人は全滅か?』
ターブルは目の前が暗く感じた。
じゃあ、兄さんは…!!
『完全な絶滅ではないらしい。あの王子と後二人だったけが生き延びたらしい』
『王子って、辺境送りにされた?』
『そっちじゃない。天才児の兄の方だ』
ベジータ兄さん!!
ターブルはスカウターをさらに耳に押し付けた。
『他の星を攻めていたようだぜ』
『それで難を逃れたのか』
ターブルは回線を切り、兄へ通信を繋いでみた。
「兄さん?兄さん!?」
緊迫した間が流れた。
『…ターブルか?』
紛れもなく、兄の声だった。
「兄さん!ああ…良かった」
またじわりと涙腺が働いてきた。
『何だ?』
相変わらず不機嫌な声が返ってきた。
「あの…惑星ベジータが無くなったと聞いて…」
『そうらしい』
スカウター越しに兄の鼻で笑う声が聞こえた。
『貴様もあと少しあそこに居れば、一緒に消えたのにな。とことん悪運の強い奴だぜ』
「兄さん…。でも、良かった」
生きている兄がスカウターの向こうにいることが、とにかく嬉しかった。
『それで、何なんだ?……貴様のことだ、どうせ用もないんだろう』
「あ…その…」
見透かされたターブルは戸惑った。
『やっと貴様の顔を見なくてすむと思えたのに、余計なことをして、ぶり返すな!』
耳に響いた。
「兄さん…」
『もう二度と連絡してくるな!いいな!!』
すぐに通信を切る音がした。
ターブルはスカウターを外した。
故郷や父、リークがもういないということは衝撃的だったが、ベジータが生きていることがそれらを乗り越えれるくらい嬉しかった。
兄さんが生きているなら、きっと大丈夫だ。
何が大丈夫なのか、自分でもよく解らなかったが安心することが出来た。
ターブルはスカウターをかかげた。
ベジータに通信を禁止されたとなっては、もう通信したいと思う者も居なかった。
この星に住む分にはスカウターは必要ないことは充分解っていた。
ターブルは立ち上がると、スカウターを引き出しの奥にしまい込んだ。
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