忘れ去られたサイヤ人

□忘れ去られたサイヤ人 1
1ページ/3ページ

エイジ734年のある日。
惑星ベジータに、また新たな生命が産み出された。
それがサイヤ人の第二王子、ターブルだ。


ターブルの兄ベジータにナッパが仕えているように、王族には側近がつく。
まだ赤ん坊のターブルにも、世話係兼任として一人のサイヤ人がつかされた。
肌の浅黒いエリート出身のサイヤ人、リークだ。
そのリークは赤ん坊のターブルを部屋に残し、すぐに戻るつもりで部屋をあけた。
この時、ターブルの運命が動き出したと言っても過言ではい。

部屋に戻ったリークは違和感を感じた。
見ると、窓が開いている。
さらに、高級絨毯の上に座らせておいたターブルが姿を消していた。
赤ん坊は時に想像以上の成長を発揮させる。ましてサイヤ人、大きな窓を開ける力があっても何ら不思議ではない。
リークは血の気が引いた。
まさか…!
窓に駆け寄ろうとしたら、外の下から一人のサイヤ人が飛んで上がってきた。
その手にはぐったりとしているターブル。
「まっまさか!落ち…!?」
聞くと、ターブルを抱えてきたサイヤ人が頷いた。
「多分、頭から」
王族の部屋は皆高い階層に当てられる。この部屋から地面までも、かなりの距離がある。
リークはターブルが死んだと思った。
「…うっ」
ターブルの体がピクリと痙攣した。
信じられない気持ちで、二人のサイヤ人はターブルを覗き込んだ。
「ふえぇ――…っ」
情けない泣き声だったが、確かにターブルは生きていた。
リークは、サイヤ人のタフさにただただ感謝した。
王族を不注意で死なせたとなれば、自分も決して無事では済まないとわかっていたからだ。



サイヤ人は赤ん坊のころに戦闘力を調べられる。
ターブルは今までの王族、特に兄との差が大きく出ていた。
例の事件でターブルの生命力の高さと幸運は口伝えに多くの人に知られた。
しかし同時に、その時に戦闘力が失われたのでないか。あるいは格闘センスは全て兄に遺伝され、ターブルにまで回らなかったのではないかという話も出回った。
それが確かかどうかは誰もわからなかったが、もしそうだとしても、ターブルが失ったのは格闘センスだけではなかったらしい………。

子どものサイヤ人の特訓には主に栽培マン相手に行われる。
ターブルも基本的な運動能力がついたころには特訓が開始され、低レベルの栽培マン相手なら時間をかければ勝てるくらいにはなっていた。
スカウターで計ったターブルの戦闘力なら、栽培マンを殺すくらいは出来るはずなのに、ターブルは攻撃に全力を込めずに殺すまではしないのだ。
それには大人達は顔をしかめるばかりだった。
本来のサイヤ人が、自我が生まれると同時に持つ残虐さ、冷酷さをターブルは持っていなかった。
今まで見たことのないタイプのサイヤ人をリークも不可解に思い、ターブルに直接聞いてみた。
どうして相手を殺さない?と。
ターブルは幼い顔を曇らせると、目をそらして話した。
「殺すのは、やだ…」
「何故?」
ターブルは口の端を下げた。
「こわい」
「怖い?」
リークは耳を疑った。
自分が殺される場面ならともかく、相手を殺すのが怖い?
他のサイヤ人と同じく、戦うことを喜びとしているリークにも、ターブルの考え方を理解することが出来なかった。
三歳のターブルには、まだ生命の尊さや大事さを悟ることは出来ていない。
ただ死体等から感じる死の恐怖を、直感的に感じとりそれを嫌っていた。
本来のサイヤ人なら、生まれぬ感情だ。



『天才と呼ばれる兄と、その出涸らしのような弟』
ターブルの評価はそういうもので定着していた。
このあからさまな物言いは、子どもながらもターブルは傷付いているかもしれないと、リークは思ったが。ターブルはそうは思わず『兄は皆に期待されている凄い存在』とだけ思っているらしい。
ターブルはベジータを強い尊敬の眼差しでいつも見ていた。
ベジータの姿を見つけ出せば、せっせと後追いを始めていた。
その日もトレーニング室が出たベジータを見つけると、後ろについていった。
二人の間に親しげな会話など一切ない。
それでもターブルは兄の側にいたいらしい。
いままではそうだったが、今日はベジータの虫の居所が悪かったのか、いきなり振り向くとターブルの足元に気功波を放った。
「うわっ!!」
当たりはしなかったものの、ターブルは後ろに倒された。
「用もないのに、うろちょろするな!! 目障りだ!!」
言い放つとベジータはマントを翻して歩き出した。
「ターブル様!」
近くで物音を聞いたリークが、倒れているターブルに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「うん…」
ターブルはリークに助けてもらいながら立ち上がった。
そしてこちらを一瞥すらしない兄を、ただ寂しそうに見ていた。


リークはターブルを彼の部屋に連れていった。
怪我等はなかった。
「兄さんは、やっぱりぼくがきらいみたいだね」
独り言のようにポツリと言った。
「………」
それはターブルやリークだけが解っていたことではない。
超エリートの王子として産まれたベジータは、自分の強さに誇りを持っていた。
そんなベジータにとって、ターブルは家族と認めたくない存在だろう。
「…貴方が強くなれば、ベジータ様も認めてくれるかもしれませんよ」
リークはそう言ったが、ターブルの答えは解っていた。
ターブルはゆっくり首を振った。
「ぼくが兄さんにちかづけるわけない」
ターブルは自分を強くさせることに関心はなかった。
「けれど、あなたはベジータ様の側にいたいのでしょう?」
リークの言葉が図星だったのか、ターブルは視線を下げた。
彼の兄や父親なら、決して出さない表情だった。
リークは無意識にターブルの頭に手を置いた。
撫でるようなことはしなかったが。
そのまま部屋を出ていこうとしたリークを、ターブルは呼び止めた。
「ありがとう」
自分の行動すら理解出来ないでいたリークは、ターブルの言葉の意味も理解できずにいた。
ただひとつだけ分かりかけていたことがあった。
サイヤ人としては異端なターブルの性格だったが、リークはそれを無駄とは思えなくなっていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ