忘れ去られたサイヤ人

□母親
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「絶対に認めないわ!!」
王妃はテーブルを叩きながら立ち上がった。
「お前がなんと言おうが、もう決めたことだ」
妃に睨まれながらも、ベジータ王は平然と話した。
「どうしてターブルを辺境の星に追いやらなきゃいけないのよ!」
「あいつは、この惑星ベジータに必要ないからだ」
「なんですって!?」
「戦わないサイヤ人は必要ないと言ったんだ」
「あんたの息子よ!」
「それがどうした?」
王妃は、王の迷いのない眼に一瞬硬直した。
「力の無い者は、息子と認めないと言うの?」
「………」
王は決して目をそらさなかった。
「役に立たない子どもを辺境の星に送るのは、サイヤ人の常識だろうが」
「前々から思っていたけど、その仕組みおかしいわよ!」
王妃は引かなかった。
「…お前はたまにそうやって無駄な感情に陥るな」
「無駄ですって?」
王妃の眉がつり上がった。
「弱い者への情けなぞ、無意味だ」
「っ……!」
王妃は拳を握りしめた。
しかしベジータ王は、王妃のことを理解出来ないという眼をし、話は済んだとばかりに席を立った。
王妃は何も言えないまま、彼の姿が見えなくなると近くの壁に恨みをこめて拳を当てた。
その壁は砕け崩れた。

王妃は女性サイヤ人の中では実力No.1だ。
だからこそ、王妃になれたとも言う。
王への愛も確かにあった。そして彼と同じように、天才児で生まれてきた第一子を誇りに思っていた。
次男については、初めは眉間にシワを寄せることもあったが、時を重ねるにつれ気持ちに変化が起きていた。
気付いた時には、ターブルには強さを求めなくなっていた。彼が笑って、そこにいてくれればいいと思い始めていた。
それなのに、そのターブルを他の星に追いやるなんて!


「一体、なにがあった?」
入り口に小さな影が現れた。
「ベジータ」
それは長男だった。
父親と同じ名前だが、王妃は彼のことも名前で呼んでいた。
しかし王は彼のことを「王子」と呼ぶ。今思うとその呼び方には『王子と認めているのはお前だけだ』という意味合いも含まれていたのだろう。
王妃は今気付いたことに腹を立てた。
「……王に会った?」
怒りを王子に向けないよう、一呼吸おいてから訊いた。
「いや」
ベジータ王子は首を横に振った。
「ならまだ聞いていないわね」
王妃はベジータに近付いた。
「ターブルが辺境の星に送られるわ」
「遠征か?」
「いいえ。追いやられるのよ」
言いながら再び腹が立ち、言い方に刺が出てしまった。
「そうか」
「反応薄いわね」
「あいつなら、何かしら処置されると思っていたからな」
「あんたまで、ターブルは必要ないって言うわけ!?」
「その通りじゃないか」
「なっ…」
眉ひとつ動かさない息子に、王妃は表情が固まった。
「あんた子どものくせに、すでに父親そっくりね!」
ベジータ王子は、王と同じ目で王妃を見上げた後、勝手に部屋を出ていった。
「この親子は…っ」





「リーク! リーク聞こえる?」
王妃はスカウターでターブルの側近に通信した。
『王妃、なんでしょうか?』
スカウターからリークの返事が返ってきた。
「今、どこにいるの?」
『下級戦士達の住宅エリアです』
「なんでそんなところに居るのよ!?」
『ターブル様が、また脱走したんです』
戦いが嫌いなターブルは、よく訓練から逃げ出していた。
「……ターブルのことは、今はほっといていいわ。今すぐ戻ってきなさい」
『え、なぜ…?』
「いいから、速くしなさい!」
『は、はい!』
通信を切った。


数分後、リークは王妃の前にいた。
部屋には他に誰も居ない。
王妃は静かにスカウターを外した。
「あなたも外しなさい」
「え…?」
何故と聞こうとしたが、王妃は視線でその質問を閉じ込めさせた。
リークは頷くと、スカウターを外した。
「……聞かれたくない話なのですね?」
「ええ」
王妃はリークの物分かりの良さに感心した。
「ターブルが追放されることは聞いた?」
「いいえ」
リークは冷静に答えた後、視線を落とすと嘲笑うように唇を上げた。
それを見た王妃の眉がつり上がった。
「やっと厄介払いできるとか思っていたら、今ここで殺すわよ?」
王妃は手にエネルギー弾を溜め始めた。
「お、落ち着いてください!」
リークは慌てて手を前に出した。
「なぜそのことをわざわざスカウターを取らせて、私に話したのですか!?」
話を戻そうとした。
王妃は冷静な顔に戻り、エネルギー弾を消滅させた。
「…あの人のことだから、ターブルをろくでもない星に送りかねないわ。だからこっちが先手を打うのよ。条件のいい星を見付けて、そこにターブルを送るようにするの」
「王に内密に、ですか?」
「そうよ」
「しかし、それでは…」
「王にバレたときに殺されるのか、今ここで私に殺されるのか、選ばせてあげるわよ」
王妃の手が再び光り始めた。
「わかりました」
リークは内心泣きたかった。
「しかし、条件のいい星とは、どこですか?」
「それをあなたが見付けるのよ」
「…わかりました」
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