ベストショット









俺がぶらぶらと街を歩いていると遠くの方から声が聞こえてきた


「おーい」


声のするほうに目を移してみると腰に木刀を挿している男が俺に手を振っている



「おーい!おいっ!無視すんじゃねぇよ」
「別に無視はしていない」


ふわふわとした髪が目に入ってくる
いわゆる世間一般的に言えば彼、坂田銀時は俺の恋人になる


しかし、恋人というほどそこまで関係が進んでいるわけでもない
進みたいとかそういうわけではないのだが、正直に言えば何もないとさすがの俺でも悲しくなってくる


実は俺には興味がないんじゃないか?
酒の勢いで告って付き合ったわけだが、あいつから返事を聞いていない気がする

キスされたから付き合ったと思っていたが、勘違いだったら…
今更ながら嫌な汗が背中から伝ってくる




「……いてる?」
「…」


「…し聞いてる?」
「…っ!?」


「トシ聞いてる?」
「えっ?わりぃ…聞いてなかった」


あまりにも考えすぎてたらしい
あいつの声が聞こえていなかった

俺としたことが…


「さっきの話し聞いてないよな?」
「あぁ…わりぃな」
「それでさ、新しいデジカメ貰ったんだ」
「…貰った?」

「あぁ…さっちゃんが拾ったからって俺にくれたんだよな」
「……」


平気で女の話を笑いながらしてきやがる
こいつはこっちが今どんな思いでいたか知らない


「土方?顔怖いんですけど…」
「いや、いつもと変わらないだろ」
「いやいや。明らかに怖いです。それじゃいい被写体が台無しだろ」
「別にいいものでもない」


あいつの言葉が一つ一つ俺の胸に刺さってくる
嬉しいはずなのに先程の"さっちゃん"という単語と素直になれない自分に嫌気がさしてきた


「土方…」
「えっ?」


聞こえるか聞こえないかの声がして、その声に導かれるように顔を向けると




カシャ!




俺の目の前にカメラが飛び込んできた


「てめぇ…何勝手に撮ってんだ」
「こんなに綺麗なのに撮らないなんてデジカメが可哀相だ」
「綺麗って…俺は男だ!」


なんか悲しくなってきた
付き合ってるかもわからない男に男が綺麗と言われて誰が喜ぶだろうか…


「土方はどんな表情撮っても絵になるからな」
「…そうか…」


もうどうでもいいや
そんな言葉でさえ頭に浮かんでくる





「さすが俺の恋人だな」






(えっ…!?)
カシャ!







「今日一番の顔撮れた」




銀時の言ってる意味がわからない
一番の顔?



「綺麗だけどやっぱり土方は可愛いな」
「可愛い…?」
「あぁ…そんな土方が好きだな」



ここで"好き"という言葉が聞けるとは思ってなくて、絶対俺の顔は真っ赤な茹タコみたいになってるだろう


「またシャッターチャンス貰ったな」
「うるせぇよ」


俺の耳元でカシャカシャ音がするが今の俺には気にならない
俺だけじゃなかったんだと思った瞬間…




「おい!銀時」
「ん?」



「俺も好きだぜ」



「えっ?…えっ!?なっ…」



たぶん今日の一番の表情はコレだと思うな
自分で言うのもなんだけど…


あとで吼え面かいても撮らせてあげねぇけどな



「じゃあな」



俺は恥ずかしいのでスタスタと銀時のいない方向へ歩いて行く


遠くの方からあいつの声が聞こえる…



「おいトシ!もう一回今の顔撮らせろーー!」



「バーカ!もうねぇよ」


他愛のない会話が俺の不安を溶かしてくれる
そんなあいつだから惹かれたなんて絶対本人には言わないけどな!















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