獄ツナ
□始まりは、あの桜の木から
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「お邪魔しまぁす!」
「いらっしゃい。隼人もお帰り」
「あ………はい」
ただいまと未だに言わない彼は何とか武の前で誤魔化して家に上がった。すぐさま部屋に上がる二人を綱吉は異様な気分で見つめる。
隼人が友達を連れて来ることも珍しければ、帰るなり部屋に行くことも珍しい。
勉強をやるということだから仕方ないのだが。
綱吉は冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。軽く食べれる一口サイズのクッキーも添えて部屋に上がった。
「隼人、これでも一緒に食べて」
「あ、ありがとうございます!」
「つ―――、父さん! そんなことしなくていいから!」
言いそうになった言葉を飲み込んで本来なら言いたくない言葉を口にした。内心で名前など呼ばなくてもいい状況だったな、と後悔しながらも差し出されたお盆を受け取った。
絶対彼は喜んでいる。そう決めつけて綱吉を見やれば予想外に普通の表情だった。
「じゃぁ、勉強頑張ってね」
にっこりと笑って扉を閉める。閉ざされたその扉を隼人は意味なく見つめて首を傾げた。
根拠はない。だけど、どこか彼が―――――不機嫌に見えた。
「――――山本、帰りましたよ?」
「そう、元気な子だよね。隼人の友達にしてはちょっとイメージ違った」
「そうですね」