獄ツナ
□桜の木に見守られて
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「いただきます」
「どうぞ」
ニコニコと歳には相応しくない笑顔を向けて来る。少し食べづらい気分で一口運ぶと、フワッとした卵の食感とチキンライスの味の組み合わせが絶妙だ。
「ぉ、いしい」
「よかった。俺さ、よく母さんに料理教えてもらったからさ」
一応自信あるんだよ、と嬉しそうに自分も食べて彼は言う。こういった行動をするから、更に幼く見られるんじゃないだろうか。
「………俺は、ピアノを教えてもらいました」
「へぇ! 隼人がピアノか、ちょっと意外だな。今度聞かせてよ」
「は、はい」
こうやって一つ一つ俺のことを理解してくれる。その度に満たされる気持ち。
「隼人は、いつ……」
「え?」
「俺に心開いてくれる?」
小さく問われた。少し淋しそうな笑みに心が揺れる。
「俺は、貴方にしか…心開いてませんよ」
そう、信じているのも、安心できるのも、貴方だけ。だから逆に申し訳ない。独身なのに、俺みたいなお荷物を背負わなければならないなんて。
「本当? そんな風には感じないけど。だって隼人いつまでも他人行儀なんだもん」
だって、他人じゃないですか。そんなこと口にできなくて、ただ複雑に笑んで誤魔化した。
家族になりたい。
家族になりたくない。
理解できない葛藤が、自分に巻き起こる。