獄ツナ
□桜の木に見守られて
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緑が広がる道を歩いて、住宅街に出る。
俺の家は、俺のじゃない。
この町も、俺の町じゃない。
「もう、二年か…」
すっかりこの町を見慣れてしまった。あの家にも、慣れてしまった。だけど、それは嬉しいことだ。
だって、それだけあの人に近付けているってことだから。
「えっと、お邪魔します」
小さく呟けば奥からこの家の主が来た。俺と同じくらいの身長で、見た目は二十歳前後くらいのこの人は、沢田綱吉さん。
俺の義父だ。
「二年たってもまだただいまって言ってくれないんだね」
淋しそうに微笑む彼に俺は一瞬息ができなかった。
視線を彷徨わせて立っていると諦めたかのように彼は呟いた。
「おかえり」
その優しい言葉に、俺は何度救われただろう。
「隼人は今日のご飯何がいい?」
「え! 大丈夫です、今日も俺が」
「だぁめ、たまには俺にもやらせてよ。これでも得意なんだからさ」
優しい言葉。優しい態度。本当に自分の親のように彼は接してくれる。
それが、最近苦しいのは何故なんだろうか。
「はい、できた。オムライス」
どんと、出されたのは綺麗にふわふわの卵を乗せたオムライスと、野菜のコンソメスープ。それから小さなサラダ。
たった30分の間にやってしまった所を見ると本当に得意なんだろう。少し意外だった。