ムクツナ
□君だけの王子様 *
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揺れる馬車の中。無言の空間。それは彼女が声をかけないからだ。これも、ルール。下手に破って機嫌を損ねるのはあまりよくない。そして、必然と消える僕の嘘笑い。これには彼女も多分気付いている。だけど、何も言わない。
窓を見つめる彼女を軽く盗み見れば、視線があった。すぐさま背けられるその顔は、何故か少し赤かった。
「…気分でも悪いのですか?」
「え?」
思わず声をかければ驚いたように振り向く彼女。あぁ、貴女のルールを破ってしまった。だけど、怒らないで、ただ顔を俯かせた。見えるのは軽く赤くなった顔。
いや、そんなはずはない。だって彼女は手にキスをしても照れない人間。それならこれだけで…。
見たことない状況に僕も戸惑う。
「何でも、ないわ」
「それならよかったです。貴女が体調を崩したら、僕は困ります」
「当然ね」
そっぽ向く顔。でもやはり覗く頬は…。
わがままなお姫様。全て僕に欲しいものを言う。全て僕に買わせようと声を張る。だけど、言うことを聞いてもなかなか貴女は笑わない。こんな女性は初めてだ。
面倒な女性は山ほどいる。もしかしたらもう女性自体面倒とも言ってしまいそうだ。だけど、彼女はそうじゃない。面倒、というよりわからない。