ムクツナ
□愛してる *
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第1話 「右目」
薄暗い建物。もう、誰も使わなくなったはずのそこ。けれど、明らかに人の痕跡を残して、来る者を受け入れる。
蜂蜜色の髪を揺らしながら沢田綱吉は迷わずに足を進めた。
「………」
「こんにちは。綱吉君」
「――――っ!! っくりしたぁ、気配なく近付くなよ!」
何かを言う前にかけられた声に過剰に反応して、叫ぶ。少し大きなその声は軽く建物内に反響した。
「そんなこと言われましても、君なら僕に気付くと思って」
「殺気がないお前に簡単に気付けるかっ! 俺はそんなすごくない」
「そうですか? こんな点数取れることはある意味すごいと思いますが」
ぺらりと何かを取り出す彼、六道骸は憐れむように笑った。赤ペンで大きく15と書かれたそれはまさしく今日返された彼の答案用紙だ。
「わぁぁあ! な、返せよ! いつの間に取ったんだよ!」
顔を真っ赤にして用紙を奪い返すとグシャグシャにしながら鞄に詰め込んだ。
そんな一つ一つの動作を面白そうに観察しながら、骸は奥に進む。
「ここじゃ何ですから、行きましょう」
「あ、うん」
差し出された手を躊躇いながらも握る。一回り大きい骸の手は至極優しく綱吉の手を握った。