ヒバツナ
□黒猫と一緒2 *
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彼女は今、困っていた。
黒く、艶やかな毛並みが自慢な愛猫。そう、黒い毛だったから今まで気付かなかったが、今日気付いてしまった。
いつものように抱き上げたら、微かに漂う香り。
「恭弥、臭い」
にー?
猫を拾ってからもう一ヶ月。それなのに今まで気付かなかったのがいけなかったのかもしれない。
よく彼女が出かけている時は、恭弥も外に気まぐれで出かけたりする。砂や土をかぶったりしてもおかしくない。
それなのに、どうして気付けなかったのか。
「よし、今日はお風呂に入ろう!」
そう思いきって叫んだ瞬間、彼女の腕から素早く彼は逃れた。たたん、と軽やかにタンスの上に乗り、間合いを取る。お風呂、という言葉を完全に理解している。
「ちょっと、綺麗になりたくないの!」
前足を突き出して、見事に威嚇のポーズだ。ツナは溜め息をついて、考える。
どう言ったら入ってくれるだろうか…、唸りながらない脳をフル活動させる。
「あー!! もう、わかんないぃ!!」
にー
いつの間にか足元に来ていた恭弥を、ツナは睨みつける。そして、ばっと捕まえようと腕を出したが、するりと逃れる。
「もう、今日は諦めよ。じゃぁ俺は入ってくるから」
そう言ってツナは一人浴室に向かう。服を脱いで、中に入れば、するりと足を擦りぬけて、恭弥も浴室へと入ってきた。意外な行動に彼女は目を丸くする。
「あれ、一緒なら入ってくれるの?」
にー
「ふふ、甘えん坊さん」
今度はきちんと素直に抱かれて、恭弥は腕の中で大人しくしている。お湯の温度を調節して、生ぬるいお湯を弱くシャワーにして恭弥にかけた。
にぃああー!!
「わ、暴れないで! ちょ、」
にゃー、にゃぁー!!
ぼん、と音と同時に恭弥は猫から姿を変える。ぎゅっと、彼女に抱きつくのは大きな男の人。身体に感じる肌の感触に、ツナは顔を真っ赤にした。
「な、な、なっ!」
「寒い…。人になればシャワーって怖くないね」
「恭弥、離れて!」
彼はある時から人の姿になれる体質となってしまった。少し慣れてきたとはいえ、男の姿にはやはり違う意味で慌てる。しかも、いつも彼が変わる時は裸なのだ。
「あぁ、ごめんツナ。重かった?」
「ち、違くて…」
「?」
顔を真っ赤にする彼女が理解出来ないのか、彼は首を傾げるだけだった。