ヒバツナ

□黒猫と一緒 *
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寒い、寒い、冬の日。
静かに舞い落ちる白い粉を見つめながら、彼女は歩く。
呼吸をする度に視界が白くなる。風が吹けばピリピリと肌が固まる。
寒さを物語るそんな中、彼女は一人歩く。


にー


か細く聞こえた甘ったるい声に足を止める。キョロキョロと周りを見渡せば、電信柱の影に隠れた黒猫を見つける。
泥を被った猫はボロボロで、寒そうにプルプル震えている。


にー


「可哀相に。寒いんだね」


見てるだけでこちらも寒くなる姿に、彼女はゆっくり身を屈める。
手を延ばせば、猫はすがりつくように顔を擦り寄せた。


「俺の家、来る?」


にー


ほんの少し嬉しそうに鳴いた気がした。彼女は、小さな身体をした猫を持ち上げてまた歩く。
白く染まったその道を。





大きなバスタオルで泥と雪に塗れた身体を拭いてやり、ドライヤーで乾かす。
途中のコンビニで買った猫用のミルクを与えれば、猫は嬉しそうに鳴いた。


「可愛いな、お前。名前どうしようか…」


にー


「ふふ、またゆっくり考えるからね。俺はツナっていうんだ」


にー


猫はツナに擦り寄り、膝の上でうとうとと眠り始めた。その可愛らしい姿に思わず頬を緩ませて、身体を撫でる。
相当疲れていたのか、ピクリともしない。


「ゆっくりお休み、これからここが貴方の居場所だから」


小さく呟いた言葉に、猫は微かに耳を動かして、寝言のように小さく鳴いた。
自分よりも微かに高い猫の体温に、ツナもまた安心して、夢の中へと旅立っていった。





○○○●●●○○○





「恭弥、恭弥ぁ!」


にー


「あ、こんなとこにいた!」


拾ってから一週間。すっかり元気になった猫は、ツナも困るくらいチョロチョロと動き回る。
恭弥と名前を付けてからは更にその行動力を発揮して、高い場所や、狭い場所へと隠れたりした。





 
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