ヒバツナ
□忘れられない子 *
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覚えているのは柔らかい茶髪のふっくらとした女の子。
『はい、おとしたよ』
眩しいくらいのその笑顔が、今でも忘れられないんだ。
ガシャン
フェンスが上げた悲鳴で目を覚ました。今日も気持ちがいいくらい晴れた大空は本当に昼寝日和だ。
そんな中起こされた恭弥は不機嫌に起き上がる。交わる視線。顔を青くして彼を凝視しているのは最近よく見る沢田綱吉だった。
「ワォ、いい度胸してるね。僕の眠りを妨げた上に授業をサボるなんて」
あぁ、やっぱり妨げの方が罪は大きいですね。
どっちにしろ自分の命はない。そう、彼は人生を諦めた。
「どうしたの? いつもよりあっけないね」
「うぅ、力が出ないんです」
「君、10年後の世界ではもっと強かった気がしたけど」
そうだ、ああいった場面では一気にわかる。
君は僕を楽しませてくれる存在なんだ。
そのはずなのに。
「つまらないよ」
「無茶言わないで下さい」
これ以上言っても状況が変わるはずもなく、恭弥はとどめを刺そうと自分の武器
を構える。
さぁ、と柔らかい風が二人の間に走った。揺れる茶色の髪に何かを連想させて彼は動きを止める。
「………、まぁいーや。今度やったら次は本当に咬み殺すから」
「は、はい」
ばたんと扉の向こうに消えた恭弥に首を傾げて綱吉は安堵の溜め息をついた。