ヒバツナ
□飴と恋
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思い出すのは、漆黒の髪と制服。
揺るぎないその姿にいつからか、心を揺らすようになっていた。
「沢田綱吉」
すっきりとした聞き覚えのある声に俺は肩を震わせた。ぎぎぎと、錆びた金具の扉のように振り返れば、やはりそこにはこの学校の最強(最恐)の人物、雲雀さんがいた。
「なんですか?」
「……今日は珍しく一人なんだね」
そう、山本は部活で、獄寺君はダイナマイトの調達のために欠席。今日は俺一人で帰らなければならない。
「はい。今は」
「ふぅん。いい傾向だよ。これからもそうなってればいいのに」
「は、はぁ」
近い。一歩半程度の距離しかあいてなくて、思わず顔を凝視してしまう。
中学生とは思えない端正な顔立ちに、色気のある雰囲気。誰だって見とれてしまう。
「何? 僕の顔に何かあるの?」
「い、いえ! すいません」
「そう。そうだ、これ。あげるよ」
いきなり彼はポケットに手を突っ込んで何かを差し出す。正直受け取るのが恐かったか、素直に手を出した。
逆らった方が危ないから。
しかし、そんな俺の予想を裏切り、手に置かれたのは苺が散らばった包装紙の飴だった。
「あの…これ」
「風紀委員に買い物を頼んだら間違えて買って来てね。あまり甘いのは好みじゃないから、あげる。それともいらない?」
「い、いえ! ありがとうございます!」
とっさに返事をすると見間違いなのか、軽く彼が微笑んだ気がした。