獄ツナ
□この愛は何の愛? *
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『はやと、こっちこっち!』
『まって、つなちゃん』
笑う君。懐かしいそれ。
銀色に輝く髪と、綺麗な緑色の瞳。
生まれた時から彼は天使だと思ってた。
『ふふ、このばしょ、ふたりだけのひみつのばしょだよ』
『うん!』
見つけた広場で交わした約束。
もう、懐かしい思い出。
ピピピピピ…
乾いた電子音で目を覚ます。時刻は六時半。学校には余裕で間に合う時刻だが、ツナにはやらないといけないことがある。
ご飯作って、洗濯物干して。
この家には両親が居ない。彼女と隼人、二人だけで暮らしている。
だから、食事や洗濯も自分達でやらないといけないのだ。
洗濯機を回しながら食事を作る。
出来た頃に止まり、洗濯物を干す。
そして、料理をテーブルに並べてツナは溜め息をついた。七時十五分。まだ隼人は起きてこない。
仕方ない…。
この瞬間が一番憂鬱だった。彼の部屋に行き、扉をノックする。部屋に入れば、微かに漂うタバコの匂い。
軽く顔をしかめながら、未だにベッドでくるまっている隼人に近付いた。
「起きて、隼人」
揺さぶっても微動だにしない。仕方なくもう少し大きな声をかけた。
「起きて!」
「んー」
やっと反応して、身を捩らせる。不機嫌な表情でツナを見やり、隼人はゆっくりと起き上がった。
布団が身体から落ち、隠していた物を見せる。彼は何故かいつも上半身裸で寝るのだ。
そろそろやめて欲しいんだけど。
そう思いながらも言えない。ツナはすぐに視線を逸らして、部屋から出た。
五分もしないうちに着替えて下りてきた彼は無言で食事を取り、無言で二人分の食器を洗い、無言で一緒に家を出る。
それがこの家の日課だ。
互いに口をきかなくなったのは両親が死んでからだ。
二人残され、ツナは淋しくて、怖くて、隼人に縋りつくようにべったりだったが、彼はそんな彼女から次第に距離を置くようになった。そして、高校に入り、今の状態だ。
どうしたらいいんだろう。
一緒に暮らしているのだから、もう少し会話をして欲しい。
話しかけても無視される。
笑ってみせても視線を逸らされる。
何だかもう彼女はめげそうだった。