獄ツナ
□早とちりにはご用心
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「10代目! 八ツ橋買ってきました!」
いつものように、獄寺隼人はお土産片手に沢田家へと来訪する。綱吉はそれは嫌がる事なく、むしろ喜んで彼を受け入れる。
「ありがとう、上がって」
「はい! お邪魔します!」
部屋に入るとそこには既に先客がいた。のんひりジュースを飲んでいたのは同じクラスの山本武だ。
「よ、獄寺!」
「何でてめーがいるんだよ!」
「いやぁ、近くに来たからさ」
ははは、と明るく笑う彼はおそらく何も悪くない。別に来ちゃいけない理由もないし、あったとしてもそれを隼人が言える立場ではない。
しかし、さも悪い事のように隼人は武を嫌悪する。
毎回見るこの光景は既に飽きてきているが、綱吉はあまり好きじゃなかった。
こういう時は俺よりも山本と話すからなぁ。
一応周囲には秘密で、お付き合いしている二人だが、まだ恋人同士でやることは何もない。
「獄寺君、ジュース飲む?」
「あ、別に気になさらないでください!」
とんでもないと言うように手を振る彼に綱吉は淋しそうに笑う。
恋人同士となっても遠慮されるのが、何だかずっと壁を感じていた。
小さく溜め息をついて、綱吉は二人の無駄な会話を聞いていた。
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「10代目」
帰りのHRを終えて、帰り支度をしていた綱吉の所に隼人は来た。妙に嬉しそうに笑う彼に綱吉は不思議そうに首を傾げた。
「何?」
「今日、俺の家に遊びに来ませんか?」
珍しいお誘いに嬉しくなる。まだ隼人の家には一度もお邪魔したことがなかった。
「うん、行く!」
そして、意気揚々と学校を後にしたのだった。
隼人の部屋は綺麗だった。
というより、物がなかった。ガランとした室内を意味なく見回して綱吉はおずおずとソファに座る。
出されたお茶を飲みながら、隼人が落ち着くのを待つ。
「10代目、お菓子は何がいいですか?」
「クッキーとか?」
「あ、クッションありますよ」
「あ、ありがとう」
「10代目! しょっぱい物は??」
「い、いらないからさ! 座って、ねぇ!」
やっと腰を落ち着かせた彼にほっとする。
だけど、途端に会話が途切れた。二人きりで、こうやって話すのはもしかしたら告白以来かもしれない。
「………あの、さ」
「はい…」
会話をしようが、見つからない。
考えてみれば隼人と綱吉は共通の趣味があるわけじゃない。好みが合うわけじゃない。