もらい物と捧げ物とコラボ物
□更に、満たされて
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時刻は昼休み。
場所は応接室。
普段なら一人だけの空間に最近は違う。
ソファに寄り掛かる少し小柄な少年は、テーブルに弁当を出してにっこりと微笑んでいる。ふわふわと揺れる髪に、黄色い小鳥が止まるのを端で見ながら恭弥は向かい側に座った。
「いつ見ても美味しそうだよね、綱吉の弁当」
「そうですか? まぁ、母さんが料理好きな人ですから」
ちらりと恭弥の方を見ると、明らかに弁当ではない料理が皿に置かれて出されている。
いつ、何処で用意されているんだろう。
気になるが、知らないこともあった方がいいと綱吉は言葉を飲んだ。
じっと未だに自分の弁当を見つめられていることに気付いて、綱吉は瞬きをする。
「………何か食べますか?」
「ハンバーグ」
予想外の言葉に軽く微笑んで、小さなハンバーグを箸で挟んだ。自然に差し出されたそれに今度は恭弥が瞬きをする。
「はい、どうぞ」
えっ!?
軽くやっているのはまさしくもあの恋人がやる甘い動作。一瞬無表情で焦りながらも恭弥はハンバーグを口に含んだ。
冷めていても気にならない美味しさが口に広がる。
「美味しい」
「よかったです! 俺、母さんが作るおかずの中でハンバーグが一番好きなんですよ!」
嬉しそうに笑って綱吉は自分も弁当を食べ始める。先程の行為を何とも思っていない所を見ると、彼はどうやら天然らしい。
「好物、もらってもよかったわけ?」
「雲雀さんてそんなこと気にする人でしたっけ?」
「綱吉、死にたいの?」
「ひ、すいません! まぁ、でも………俺と雲雀さんの好物が一緒なら嬉しいなって思って、俺も食べて欲しかったんです」
優しく微笑む彼に恭弥は心が疼く。こんなに満たされている毎日。幸せ過ぎる日常。
彼を好きになってよかったと、心から思った。
昼下がり、幸せな時間も終わり、一度仕事に戻ろうかと思ったその時だった。背後に感じる微かな気配に恭弥は振り返った。
「やぁ、赤ん坊」
「上手くやってるみてぇだな」
「まぁ、君のおかげでね」
小さなあの家庭教師が窓に座っていた。彼はニヤリと意地悪い笑みをこぼして、赤ん坊らしからぬ台詞を吐く。
「まぁ、それもいつまでもつかな?」
「どういうこと?」
「ま、そのうち物足りなくなるってことさ」
それだけ言い残して彼は消えた。一体どういうことなのか理解できなかった恭弥は、後にこの言葉の本当の意味を自らで思い知ることになる。