もらい物と捧げ物とコラボ物
□そろそろ気付いて
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声に出せなくとも気持ちは伝えられる、はず―――
一風変わった校歌の学校を支配する風紀委員長は、人生の中で誰かと群れるなどと考えたこともなく、弱者にはとことん容赦ない。――ない、はずなのだ。幼馴染みの沢田綱吉という小柄な男子中学生以外には。
今日も放課後、最近の日課と化した応接室での手伝い、と言う名の雲雀の幼馴染みへのアタックが行われていた。
ソファーに隣り合う形で雲雀と綱吉は座り、片方はニコニコと、もう片方は今日こそ、とマカロンを食べていた。
ちらっと雲雀が綱吉を見れば、口の周りを汚して美味しそうにマカロンを頬張っていて、ハムスターみたいでかわいいと頬を染める。
それをごまかすように、指で綱吉の口の周りを綺麗にしてやりながら、美味しかったかと聞く。
「うん!美味しかった!」
「ならいいよ。・・・・・・綱吉、」
「んー?」
「〜〜っき、今日は家まで送っていってあげる!」
「ほんと!えへへ、うれしい」
違う。違うだろ。違うんだ綱吉。本当に言いたいことはそれじゃないのに、綱吉を前にすると遠回しにしかならない。雲雀は綱吉にわからない程度に肩を落とし、気分を変えようと紅茶に口をつけた。
「あっ恭弥、それ俺の紅茶!」
間接ちゅーだよ、なんて綱吉が言い出し、雲雀は紅茶に噎せてごほごほと咳をする。大丈夫か、と綱吉が心配しているのだが、出来れば早めに教えてほしかったと思うのは戯れ言だろうか。
そんな中、背中を優しく撫でる綱吉の掌からオロオロとしている感情が伝わってきて、雲雀は苦笑する。雲雀はありがと、と言いながらふわふわとはねる鳶色の髪をくしゃくしゃ撫でてやれば、綱吉は猫の様に目を細めふわりと微笑む。
(今の表情かわいい。・・・なんか、キス、したいかも)
「綱吉、き・・・」
「"き"??」
「キス・・・・・・したことあ、る」
最初の方が小声で、結局言いたい事とあと一歩違うと雲雀は自分を叱咤する。したことあるかは確かに気になるが、今は自分が綱吉としたいのであってそれを聞きたい訳ではない。ないのにまた言えない。
そんなこと思っているうちに、「ないよ」と綱吉が頬を赤く染めて答えたのを雲雀は聞き安堵する。けれどいないとわかってしまえば、余計キスしたくなるというもので。
「――綱吉、後ろ向いて」
「ほえ?うしろ?」
「うん。後ろ・・・とゆうか背中」
突然雲雀がそんなことを言い出したので、綱吉は首を傾げながらも言われた通りに背中を雲雀に向ける。
何をするのかと不思議に思っていると、
「これから綱吉の背中に文字をかくから、それを当てるんだよ」
と言うので、伝言ゲームをするのかと納得する。
するすると背中を撫でる指がくすぐったかったが、雲雀の伝えようとする文字を綱吉は懸命に探す。くるりと指が回ったり、すーっと下へ払っていく感覚に身体を震わせながら、一つの答えに辿り着く。
「・・・す、き?」
すき。確かにその文字だった。真意を問おうと振り返れば、耳まで真っ赤にしていた雲雀が瞳に映り、綱吉は困惑気味に名前を呼ぶ。
「恭弥?・・・すきって何がすきなの?しかも真っ赤・・・」
「五月蝿いね。すっ・・・スキなのは綱吉に決まってるだろ」
「へっ?そりゃあ俺は恭弥のことすきだけど、なんの関係があるのかさっぱりわかんないんだけど」
この鈍ちんは主語を逆に捉えているらしい。しかもどう考えても幼馴染みとしての好意の好きだ。
それでも情けないことに、声に出すのが恥ずかしくて言えそうになく、やけくそだと近くにあったメモ用紙とペンを手に取る。さらさらとペンを走らせ、綱吉に投げ付けるようにメモ用紙を渡す。
「・・・・・・・・・恭弥、これ」
「そのままの意味だよ」
きっかり10文字。
――キスしたいのすきだよ
乱暴なのに何処か一生懸命な文字を見て綱吉は顔を綻ばせる。なんだか呪文のようだと思い、雲雀を真っ直ぐ見つめて言葉にする。
「すきだからキス?」
「うん。そうだよ」
「そっかぁ。それで恭弥は誰がすきなの?」
「・・・・・・・・・・・・それ本気(マジ)でいってるの」
ここまでやってわからないのは流石に問題ではなかろうか。流れでわかってもいいだろうに、そんな様子を微塵も見せない幼馴染みを雲雀は軽く睨みつける。
そして呑気に美人さんだのロングヘアーがいいだのと言う綱吉の頬に雲雀は思い切り噛み付く。
「ちょっいだ!いたたたたっ噛んでる!噛んでる!」
「ほはりはえへひょ(当たり前でしょ)」
カジカジと噛まれ、気が済んだのか、漸く雲雀が噛み付くのを止め、綱吉の頬には歯型がくっきりとついていた。
大きな瞳に涙が溜まり、恭弥のばか、と綱吉が罵る。雲雀はそれにムッとしながら、今度は綱吉の唇に噛み付いてやる。
まったくどうしてこんなにも鈍いのか。少しは僕の気持ちも思い知れ。
そろそろ気付いて
(恭弥!ファーストキスどうしてくれるの!)
(責任取って僕が恋人になってあげるよ)
(だって母さんが、お互いがファーストキスだったら結婚ね!って!)
(ワォ!それは随分早い話しだね)
っていうか絶対に告白されたことに気付いていないと思いながらも、プロポーズはもっとちゃんと伝わるようにしようと、心密かに雲雀は誓っていた。
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