企画小説

□言葉のいらない関係
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「G! 見ろ、鳥が木に引っ掛かっている!」


ガキの頃から一緒にいたあいつは、いつもいつも普通なら気がつかねーようなものに気付いて、そして笑って首を突っ込むような自由人だった。





バサッ


重い物が落ちる音に彼は目を覚ます。気が付けば外は真っ暗で、意識があった時からもう三時間は経過していた。
落ちたのは読んでいた分厚い本だ。彼…Gはそれを溜め息混じりに拾い、机に置く。


「まだ、帰ってないな」


誰もいない部屋を見渡して、仕方なく立ち上がる。赤い髪をかき上げ、部屋を出た。
時間が時間だけにもう人気もない廊下を歩き、違う部屋にへと入った。


「………」


見えるものは窓に足をかけて懸命に背を延ばす男の背中。何をしているんだと思わず睨み付けるように彼が手を出している方向を見やれば、そこには木から下りられなくなった子猫がフルフルと震えて立ちすくんでいた。


「貴様、手を出しているのだからこのくらい来れるだろう!」

「………」

「ほれ、来い!」

「………はぁ、ボスになってもやるこたぁ変わんねぇなおめーは」


見兼ねたGは彼に大股で近付いてそう言った。手を引っ込めることもなく振り返り、Gの顔を確認したジョットはおぉ、とわざとらしく声を上げて笑った。


「手伝えG! お前も猫が好きだろ?」

「いつどこで誰がそんな話をした?」

「この前庭でアラウディと仲良く話しているのを見て俺が判断した」

「………」


確かにアラウディと話した記憶はあるが、仲良くしていた記憶は一切ない。むしろ、アラウディにおちょくられ、喧嘩に近い状態だった気がする。だが、そう言葉を返すのも面倒になり、Gは溜め息だけつく。
自警団を作ってから気付いたことだが、ジョットには尋常では有り得ない直感力がある。だから、いざという時の判断は頼りになるし、小さなことにもよく気付く。
しかし、どうしようもないことにも変な解釈をしがちで面倒でしかないこともしばしばある。


「言っとくがな、あのアラウディも、デイモンも、おめーがほいほい連れて来たんだろうが! 俺の好みじゃねぇ」

「デイモンはわからんが、アラウディはお前結構好きだろう? 連れて来てお前の顔を見て、俺はここに置いたんだ」


よく言うぜ。


ああ言えばこう言う。
とはこういう時に使うのか。とGは考えながら未だに下りて来ない猫を見る。ジョットから目を離さずにプルプルと足を震わせる猫に、何かを感じ取ってジョットを抱き締めた。


「おい、何をする」

「いいから、こっち来い」


ズルズルと後ろに引きずって、窓から離れさせた。子猫の救出を邪魔されたことにムッとしてジョットはGを見やれば、やっと目が合った。


「G、俺は今あの子猫を―――」


邪魔するなと最終的に紡ごうとしたジョットの唇をキスで塞いで、そっと横目で窓を見やれば、子猫が自力で部屋に入って来ていた。
人に慣れていない動物は、たとえあの状況でも甘えようとはしない。逆に警戒心を増すものだ。





 
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