企画小説

□君が見るものは私だけ
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私がここに入る理由はただ一つ





長く続く廊下の先。彼はその場所にいた。紅色の空を眺めて、目を細める。


「こんな所にいたのか」

「……」


そんな彼を見つけ出したのはここのボス。彼は溜め息を付きながら近付き、同じように空を見やる。


「そんなに夕陽が好きか?」

「……大空、とはよく言ったものです」

「?」


突然の切り出しにジョットは眉を寄せる。彼はいつもの形よい笑みを浮かべて、ジョットを見上げた。
少し恨みが入ってるかのようなその瞳に、だが彼は臆することもなく見つめ返す。


「そうやって君は全てを見ようとする。だけど、所詮ただの甘い男。もうここではやっていけない」

「まだ、それを言うのか」

「言いますよ、何度も。君にはここは相応しくない」


そう呟いてデイモンは立ち上がる。笑みを消してジョットに顔を近付ければ、彼は自然と目を閉じた。
そして重なる唇。


「君にはボンゴレなんて見れない」

「デイモン…」

「君はここにいちゃいけない」


君に相応しいのは、ここじゃない。


ボンゴレに相応しいのではない。ジョットに相応しいものをデイモンは何度も心の内で繰り返す。
彼の肩を掴んで抱き寄せれば、耳元で小さく紡いだ。





「君が見つめなきゃいけないのは、いつまでも僕だけ」





こっちを向いて。
他の奴なんて見なくていい。
ボンゴレなんてどうでもいい。
君さえいれば、私はそれだけでいいんだ。





誰もいなくなったその部屋をデイモンは見つめて、顔を歪める。
彼はボンゴレを去った。デイモンに言われた通りに。
だけど、彼は何も言わずに消えた。


「馬鹿でしょう?」


私が見れない場所に、君が行ってしまうなんて。


募る想いは届いていたのか。
もぬけの殻になった部屋をただ見つめながらデイモンは笑う。


「ジョット、私には……君しかいなかった」


どうか捨てないで。
どうか消えないで。
君がいなくなっては私は息も出来ない。


どうにも出来ない気持ちをただ漏らしながら、彼は膝をついた。
まるで彼に懺悔するように。





彼の時間は彼が消えてから止まったまま。





終わり

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