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□2009.7 獄ツナ
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【返事は名前で】






「あのさ、その10代目ってやめない?」


いつものように
いつもの時間に
何も変わらない生活をしていたそんなある日。
多分彼にとっては衝撃的なお願いをした。


「む、無理です!」


一体何度このやり取りをしただろう。いつになったら彼は頷いてくれるのだろう。そんなことをぼんやり思いながら肩を竦める。


「なら、いい。もう、いい」


歯切れ悪く呟いて俺は一人歩き出す。明らかにふて腐れた表情をしためか君は慌てて追いかけてきた。


「す、すいません! 他のことなら何だってしますから」

「いらない」

「じゅ、10代目ぇ〜」

「そんな人知らない」


知らない。10代目なんて肩書き、まだ俺は持っていない。
君にとってはそうかもしれないけど、俺は違うんだ。
もやもやする。いらいらする。何にも知らない君に。


「俺は君と対等になりたいんだ」

「え?」


いいよ、もう。そうやってのんびり待構えてればいい。
俺は待ってやんないから。どんどん走って追い付いて、君を振り向かせてやるんだ。
俺は足を止めて振り向いた。いつも敵に睨みをきかせる彼は今ものすごく情けない表情をしている。
内心笑いそうになったが、何とか堪えてその大きな身体に抱き付いた。


「な、どっか具合でも………?」

「ねぇ、いつになったら気付く?」


本当、いつまで待てばいい?
足を伸ばして、つま先立ちで、俺は彼の耳元で囁く。君がいつまでも意地を張るから、こういうことになるんだからな。
いつまでも焦らすから、行動しちゃうんだ。





「俺が、"隼人"を好きだってこと」





君はいつになったら振り向く?
俺と君の距離はあとどのくらい?


案の定真っ赤に顔を染めて君は震えた。
ほら、見ろ。
そうやって俺を神のような存在に扱うから、こういう目にあうんだ。俺がそんな感情持たないと思ってたの?


「返事は、名前でいいから」


10代目を取るか。

沢田綱吉を取るか。

決めるのは、君だよ。獄寺君。


もちろん、フラれても諦めるつもりなんてないけどね。
だって君も、俺から離れることなんて考えてないんだから。

獄寺君は何度も視線を動かして口を開閉する。
何か待つの面倒になってきた。だけど、どうしても聞きたい。君の声で俺の名前を。
そして、やっと覚悟を決めたのか、まっすぐ俺の目を見て、肩を掴んだ。
近付く顔。逸らせない視線。
ん? あれ?
何かおかしくないか?


ちゅ


「――――!!」


触れ合った唇に今度は俺が赤くなる。不覚だ。不意打ちだ!
何だそれ、どういうこと!


「―――愛してます、綱吉さん」


やられた。
やるつもりだったのに。ずるいよ、君は。
いつもいつも俺にしか向けないその笑顔に、俺は負けるんだから。

でも、今日は。いつもより幸せな言葉が聞けたから、いいとしようかな。







誰だこれ…





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