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□2010.8 ムクツナ
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【近過ぎる君との関係】
耳元でじりじりと大きな音が響く。あまりの五月蠅さに耐えきれなくなって、彼は目を覚ました。
耳元で鳴るのは彼愛用の目覚まし時計。だけど、今日は休日で、セットした覚えなどなく、眉を寄せて時計を手に取り起き上がれば、誰もいないはずの部屋に犯人がいた。
「やっと起きたんですか?」
勝手に上がりこんで勝手に人の漫画を読むのは、幼い頃から同じ幼稚園、小学校、中学校、そして高校と同じクラスになった幼馴染。
こんなこともう何度もやられているので驚きはしないが、そろそろ迷惑だと思い始める。
「骸、休日くらい昼まで寝かせろよ」
「寝かせてあげましたよ。今丁度十二時です」
もう一度時計を見れば確かに正午回っていた。もう何も言えなくなって、綱吉は溜め息をつく。
「今日は何の用?」
「別にありませんが。あぁ、でも奈々さんに君の宿題を見てくれるよう頼まれましたね」
母さん…。
成績が月とすっぽん並に差のあるこの二人の関係は、家庭教師と生徒に似ている。更には奈々と骸は妙に仲がいいのもあり、こうして起きない綱吉を骸が代わりに起こしに来るのだ。
深く溜め息をついて、とりあえず私服に着替える。こんな関係がもう何年も続いている。
「お前さ、そろそろこういうの飽きないの? 面倒だったりしない?」
「やめていいんですか? 別にやめてもいいですけど、多分君後悔しますよ」
そう言われて反論できない自分が情けないと思いながらも、綱吉はやめてくれとは言わない。意地悪で、口うるさくて、だけど常に自分よりも正論を述べる彼はとても厄介な存在。
それでも、この幼馴染な関係は嫌だとは思わなかった。
「骸くーん!」
女子のはしゃいだ声が綱吉の耳に届く。
同じ学校で同じクラス。もう何年この関係が続いているのかは知らないが、この光景を見るのはもう飽き飽きしていた。
幼稚園から高校まで、ずっと彼はモテ期だ。誕生日には沢山のプレゼントを贈られ、クリスマスには手作りの品物を渡され、バレンタインには彼の大好きな甘ったるいチョコレートを腐るほど持たされていた。
それを誰よりも近くで、誰よりも長く見てきた綱吉はただ溜め息しか出ない。
「ここ教えて」
「ここはですね」
外面いいからなぁ。
普段自分に教える時とは違いすぎる態度に何故だかイライラして、綱吉は席を立つ。もう昼休みで、他の人達はとっくに教室から離れて、購買に行ったり、食堂に行ったりしていた。